Nazca Novels 恋鍋〜鍋ちゃん子の恋

最終話 願いをこめて

今夜は星がキレイに見える。
初日の出が見られそう……だけど、そんなことはどうでもいい。
何をしに来たのか分かんないよ。
本当はアイツに聞きたいことがあったのに…
私はあの時のことが知りたい。

あの時、私がそう言わなかったどうなっていたのだろう?

「オレどうしよう」
「由真はカワイイし、女の子らしいし最高じゃない」
「お前、マジでそう思う?」
「当たり前じゃない、由真のことは私が一番知っているもん」
「……そっか、オレOKしてくる」

そう言うしかなかった。
本当は胸が張り裂けそうだった。

アイツのことは嫌い。
いや、嫌いになりたかった。
そうしないと自分を責めてしまうから。
そうしないと自分を嫌いになってしまうから。
だからみんなとは違う高校に進んだ。
苦しさと後悔から解放されたかった。
アイツを忘れたかったから。

なのに、同じ高校にアイツはいる。
こんなにも近くにいる。
こんなにも私を苦しめる。

本当は凄く会いたかったのに……

「行くなよ」
「帰る」
「オレのこと好きなんだろう?」
「……」

私は足を止めた。
何調子に乗ったことを言っているのよ。
その自信ありげな言い方。
図々しいったらありゃしない。

「そっか、お前のこと…泉菜のこと諦めろってことだな」
「えっ?」
「もう好きでいることは諦める」

ちょっと、なに言っているの?

「もうお前には近寄らない」

ちょっと待ってよ。
気持ちの整理ができていないってば。

「今まで悪かったな」

足音が少しずつ遠のいていく……

だからちょっと待ってよ。
そんなのイヤだよ。
アイツが近くで笑っていてくれない毎日なんて…
そんなの死んだ方がマシだよ。

ごめんなさい。

ごめんなさいだから行かないで。
私の近くで笑っていてよ。

言わなきゃ、行かないでって言わなきゃ……
あれ? 声が出てこないよ。
神様お願い、私の想いを声に出させて。

「一人にしないで」

足音が止まった。

「ずっと好きだったの」
「泉菜……」
「だから行かないで」
「由真にはバレていた、オレが泉菜のことをずっと好きだったってこと」
「由真……」
「由真はオレのことも泉菜のことも知っていたんだ」

あの時、私も好きだって言えなかった。
由真は私に本当にいいのって何度も聞いた。
私は精一杯の笑顔でウソをついた。
一番苦しんでいたのは由真だった。
由真、本当にごめんなさい。

私はずっと前からアイツが好き。

「私は英宜が好き」
「知ってる」
「だから私のそばにいて……ください」
「うん」
「もっと私を好きになってください」
「うん」

やっと本当の気持ちが言えた。

私は小学の時からずっと好きでした。
あなたの周りにはいつも笑顔がありました。
その輪の中心にあなたがいました。
その笑顔で元気になれました。

イタズラされるのが嬉しかった。
あなたを追いかけるのが楽しかった。
かまってもらえるのが幸せでした。

私の時間はあの頃から止まっていました。
大人になっていく自分が嫌でした。
由真の彼氏……遠い存在になってしまったあなたを忘れたかった…
忘れられるはずがないのに……

今はこんなにも近くにあなたがいる。
絶対に離れたくない。

「泉菜」
「はい」

見上げると星空が目に入ってきた。
それは一瞬で見えなくなった。
ギュッと抱きしめられた。
私は目を閉じ唇であなたを感じた。

「新しい一年が始まったよ」

除夜の鐘が鳴り響いてきた。
こんなに穏やかな気持ちになったのはいつ以来だろう?
もう思い出すこともできない。
でもいいの。
だって繋いだ手から幸せを感じるから。

二度とこの手を離したくない。

「お参りしよっか」
「はい」
「なんか急に堅苦しいぞ、ちゃん子」
「うわっ、ちゃん子に戻った」
「そっちの方がお前らしいぞ」
「ヤダヤダ、泉菜って呼んでよ」
「どうしよっかな〜」
「わ〜ん、新年早々意地悪だよ〜」

私はずっとアイツと一緒にいたいと願いをこめた。

星空がとてもキレイです。

― 終わり ―

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