Nazca Novels 恋鍋〜鍋ちゃん子の恋

第4話 最低の年越し

私は走ってコンビニに向かった。
コンビニにアイツの姿は無かった。
まだ2分残っているのに……
何よ、心臓が破裂しそうなくらい走ったのに…

神様はどうしてこんなに私をいじめるの?

『コンコン』

ガラスを叩く音がした。
ガラスの向こうには白い歯を見せて笑うアイツがいた。

「もういなくなったと思った」
「何も買いもしないでいるのはキツイだろ」
「そっか、ゴメン」
「時間がないから行くぞ」
「みんなは?」
「みんなは神宮に行っているよ」
「えっ? じゃあもう間に合わないよ」
「バカかお前は? 当たり前だろ」
「バカって……酷い」
「いいから行くぞ」

私はアイツに言われるまま付いていった。

「ちょっと、歩くのが早いよ」
「年が明けるぞ」
「待ってよ」
「ほら」
「あ……」

手を繋いだ。
アイツの右手は温かかった。
アイツは私の左手を包んでくれた。
体中が熱くなっていった。

街の外れにある小さな神社。
高台にある神社からは街の灯りが見える。

「まだ時間があるな」

アイツは私の左手を離した。
温もりが消えていった。

「お前だろ犯人は」
「犯人?」
「オレが女たらしって言いふらしたの」
「……」
「お前ってそんなにオレが嫌いなのか?」

そう、私はアイツが嫌い。
身勝手で図々しい男。
ちゃん子って悲しいあだ名を付けた張本人。

「当たっているでしょ、女の子だったら辺り構わずじゃん」
「言い方が悪いな〜誰とでも仲良くしているだけだって」
「あっそ、そう見えなかったものだから」
「あのさ、オレって誰かに手を出した?」

そんな噂は一度も耳にしたことはない。
アイツは由真と付き合っていたから。
だけど、好きな人がいるからって由真と別れた。
同じようなものじゃない。

「何よ、それでわざわざ呼びつけたわけ? アンタ由真をフッたでしょ」
「それはお前に関係ない……いや、あるか?」
「何ワケの分からんこと言ってんのよ! 他に好きな子ができたって最低だよ」
「仕方ないんだって、ウソつきたくなかったから」
「どうして他の人を簡単に好きになっちゃうの?由真がかわいそうだよ」
「簡単じゃないよ……ずっと悩んでいた。それに由真にはちゃんと言ったよ」
「好きな人のこと?」
「ああ、それに由真もずっと知っていたから」

やっぱ身勝手だよ。

「あのね、アンタがちゃん子って呼ばなければ、私は今頃楽しく高校生やっていたのよ」
「いいあだ名だろう? カワイイ感じがして」
「そのあだ名のせいで私は苦しんでいたの!」
「そうだったのか? だいたいの人って、鍋屋は小さくてカワイイからピッタリだって言っているぞ」
「えっ?」

よく考えるとあだ名のことでバカにされた記憶はない。
背が小さいから小学生とか、ロリコンちゃんとか言われたことは多いけど……
だけど、だけど……

「いいや、アンタが悪い」
「お前も悪いだろ? 濡れ衣を着させやがって」
「最低! 最悪の年越し、私帰るから」

何よ頭に来ちゃう。
急いで着替えて出てきたのに……
一生懸命走ってきたのに……
やっぱりアイツが嫌い。
嫌いだよ。

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