第1話
いつも仕事のせいにしていた。
確かに忙しい。
小さな設計事務所だから当たり前といえばそれまでだけど。
小さな仕事でも断れないのが辛い。
いつの間にかすれ違いの生活が続いている。
「最近っていうか、ずっと2人でいる時間がないよね」
「ごめん千香、事務所が軌道に乗るまでなんだ」
「英成っていつもそう言ってるよ」
「分かってる……ごめん」
「私たち3年半も付き合っているのよ」
千香の言いたい言葉は想像がついた。
結婚…その言葉を求めている。
最近は特に忙しく、連絡もろくに取っていない。
相当怒っているはずだ。
僕は幽霊が一番怖い。
子供の頃、夜遅くまで公園で遊んでいた。
親に怒られると思った僕は急いで走って帰った。
暗い公園で近所のお婆さんとでバッタリ出会ったときは幽霊かと思い漏らしたほどだ。
いまだにテレビ番組の心霊写真特集とかが見れない。
トイレに行けなくなるからだ。
その次が泣いて怒る千香だ。
もう24なのに幼稚園児のように大泣きする。
初めはかわいいところがあるじゃんって思っていたけど、さすがに最近はそれを見るだけで異様に疲れる。
アパートであんなに泣かれると近所の人から変に思われてしまう。
そろそろ大泣きされる頃だ。
それだけは阻止したい。
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