第6話(最終話)
彼女の姿はなかった。
僕が見たものは何だったのか……
音もなく消えてしまった。
さっきまで僕の後ろにいたはずなのに。
一気に寒くなってきた。
足がガクガクしてきた。
幽霊だったのか……
って、オレの車もないじゃん!
あの女……美人だから油断した〜
このままでは千香に大泣きされる。
レストランに電話しよう。
いや、直接千香に電話だ。
って、携帯車の中じゃん!
途方に暮れる僕を救ってくれたのは除雪業者のトラックだった。
約束の時間より1時間半も遅れて店に着いた。
千香は怒っているだろうな。
でも、指輪を見せたら許してくれるだろう。
絶対に幸せにするよ。
しかし、千香の姿は無かった。
僕はガッカリした。
仕方がない、ちゃんと謝って改めてプロポーズしよう。
オカマっぽい支配人が笑顔で近寄ってきた。
「お連れ様がお渡しするようにと」
「すいません。怒ってましたか?」
「いいえ、笑顔でお渡しするようにとおっしゃいました」
「そうですか」
僕はホッとした。
そして、中身を見た。
『永遠にサヨナラ』
僕の恋は終わってしまった。
渡せなかった指輪……もうどうでもいい。
「終わってしまいました」
「それは残念です」
「何もかも嫌になりました」
「いいえ、再び始まるんですよ。あなたはこれからです」
僕は会社を辞めた。
今は雪子という名前の人と生活している。
僕の妻だ。
雪子も吹雪の夜に彼氏に振られたそうだ。僕に似ている。
色白で美人な彼女を僕は永遠に離さない。
僕たちは運命的な出会いをしたのだから。
吹雪の中で出会った2人。
別れが出会いの始まりだった。
いいや、分かれる前に出会っていたのだ。
僕はあのレストランの支配人のもう一つの店で働いている。
雪奈という源氏名で……
PM
8:00
「おはよー」
「雪奈ちゃん、おはよー♪」
雪奈は今日も張り切って頑張ります。
僕は今、幸せです。
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