第5話
女の人に見えた。
恨めしそうに僕を見ていた。
僕はあまりの恐ろしさに目をつぶってハンドルに頭をつけた。
神様お願いします。助けてください。
ひたすら願った。
しかし、僕の願いは聞き入れてはくれなかった。
窓を激しく叩き始めた。
『バンバンバン』
僕の心拍数はMAXになった。
神様お許しください。
先日本屋で設計関連の本を購入したとき、どさくさに萌え系アニメ本も一緒に買って領収書を切ってしまいました。お許しください。
ついにドアが開けられた。
神様…お許しになってはくれなかったのですね。
あまりの恐怖に意識が遠のいていきそうになった。
「すいません、すいません」
「へっ?」
「すいません、車が動かなくなって……助けてください」
ホッとしたと同時におならが出た。
すかしッペで良かった。
「どうしたんですか?」
「急にエンジンが止まっちゃって」
「それは大変ですね」
色白の綺麗な人だった。
「私、大事な用事があって…急いでいるんです」
「大事な用事ですか」
「はい、人生最大の用事なんです」
それは僕も同じ……今日はプロポーズするのだから。
「じゃぁ見てみます」
「お願いします」
とは言っても、僕はメカには強くない。
それに前も見えないくらいの吹雪だ。
キーを回した。
『カチッ』
後は何も起こらなかった。
たぶんオルタネーターがダメになっているな。
「これ、レッカーしないとダメですね」
そう言って僕は振り返った。
しかし、彼女は忽然と姿を消していた。
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