第1話 イヌ科の彼女
私は広告デザインやWebデザインの制作する会社に勤めている。
とはいっても、私ともう一人の男性社員と二人だけの小さな会社だ。
会社といってもこの男性社員のマンションの中で、会社と呼ぶにはいささか無理がある。
デザインについてお客さんと打合せをし、パソコンとにらめっこ。
ネットで申し込んできたお客さんにはメールで打合せをし、パソコンとにらめっこ。
経理も兼務しているので、その辺に関しての仕事もパソコンとにらめっこになる。
たまに出歩くことができるのは、銀行回りと営業のときだけ。
家に帰るのはいつも遅くなる。
面倒くさいからこの会社を兼ねたマンションに泊まったりする。
まだ25歳なのに……女として寂しくないのかって最近思う。
「ナツメ、こんな感じの方がスッキリしないか?」
「ん〜どれどれ、この方が色的にも見やすいね」
男性社員は一応この会社の社長である。
名前は皆藤祐真という。ちなみに私は新堂なつめね。
子供の頃から趣味はパソコンいじりで、趣味が現在の職になった。
私とは同じ大学のサークル仲間で、卒業してからもたまに飲みに行ったりしていた。
彼は大学に行っているときから、この会社を立ち上げていた。
去年の春、彼に会社を手伝ってほしいと頼まれた。
私も同じような会社に勤めていたけど、小さな会社の方がもっと自分のやりたいことができると思い誘いに応じた。
考えは甘かった。
やることが多くて大変だった。
自分の生活の大部分を仕事に持って行かれた。
唯一の救いは自分の性格だった。
モニターに向かっている時が一番落ち着く。
オタクとマイペースが入っている性格が今の自分を支えていた。
「よし、今日は終わりっと」
「お疲れ」
「ナツメの方はどう?」
「私はあと2,3時間ってとこかな」
「オレはメシ食いに行くから」
「今日は真砂子ちゃん?」
「ご飯作ってくれるんだって」
彼は彼女が少なくても二人はいる。
その一人が真砂子ちゃんだ。
大学の後輩で、女の子らしくて彼をとても慕っている。
人なつっこくてかわいい女の子だ。
「明日は打合せがあるから遅れないでよ」
「ここ一応オレの家なんだけどな」
「どうせ帰ってこないでしょ」
「カギはちゃんと掛けて寝ろよ」
「分かってるよ」
私が今日もここに泊まるを前提で言っている。
……泊まるけど。
それにしても体力があるなぁ。
私だったらムリだよ。
これから出歩くなんて思わないもの。
すぐに寝たいってしか思わないよ。
祐真は凄いよ。
彼には才能がある。
ひとつめは抜群に仕事が速い。
二つめはデザイン感覚。
三つめはお客さんを巧みに操る話術。
これを兼ね備えているから、こんな小さな会社でも仕事が入る。
そこだけは尊敬してしまう。
「やっと終わった」
明日は新規の打合せもある。
HPのテンプレも作らなきゃいけないな。
とりあえずお風呂入ろう。
◇◇
「先輩は結婚なんて考えたりします?」
「まだまだ先だね、今は仕事が優先だよ」
「……そうですか」
「やっと軌道に乗ってきたところだからね」
今は充実している。
仕事もかなり増えている。
僕とナツメの二人じゃ追いつかないほどに。
結婚なんて先過ぎて、まだまだ見えないよ。
だけど、ナツメは女の子だから結婚とか考えているかもな。
今年の冬で26になるもんな。
う〜ん、アイツがいなくなるとキツいな。
でも、新しい人のことも考えておかないとダメかな。
とはいっても、アイツの代わりって……
頭が良くて仕事ができて、僕のことを理解してくれる人間。
ナツメの代わりになるヤツなんているのか?
うん、やっぱナツメには結婚なんてさせないで働いてもらおう。
アイツも今の仕事が楽しいって言っているもの。
メッチャ身勝手だな〜オレ。
背中に当たる感触があった。
彼女は僕の前に移動して、甘えた目で僕を見た。
「泊まってくれますよね」
「いいよ」
彼女はうれしそうに笑った。
まるで褒められた子犬のように。
彼女はきっといい奥さんになるだろう。
従順で優しく、ホッとさせてくれる。
だけど、時々うっとうしく思ってしまうときがある。
同じ時間を共有しすぎるのは好きじゃない。
勝手だといえばそうだけど、息が詰まるときがある。
上手くは言えないけど、自然に寄り添えるような感じが理想だ。
それと……
彼女は夜、なかなか寝させてくれない。
体力的にもけっこうキツイ。
僕はまだ若いはずなんだけど…
ひょっとしたらこれが一番の理由かもしれない。
僕は実家で飼っているボーダーコリーのルパンを思い出した。
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