第2話 ネコ科の彼女
「たまに早く帰れよ」
「テンプレもう一種類作ったらね」
のめり込むと一気にやりたいんだよね。
これが終わらないとスッキリしないんだもん。
「たまにも彼氏とかとデートすれば?」
『ピクッ』(右こめかみ)
トコトコトコトコ。
『カチャ』(冷蔵庫のドア)
トコトコトコトコ。
『プシュッ』(発泡酒)
ゴクゴクゴクゴク。
「んあ〜っ」(一気飲み)
し〜ん。
「今なんか言った?」
「なげーよ!」
彼氏がいたら変われるのかな?
ある意味、私って引きこもりだし。
こんな女を相手にしてくれるのだろうか。
「ココ辞める」
「悪かったって」
「焼き鳥食いたいな」
「分かったよ」
久しぶりに外食した。
最近はカップ麺と、会社の冷蔵庫に何故か大量にある辛子明太子しか食べていないような気がする。
久しぶりの焼き鳥は超うまかった。
「私はね、パソコンいじっているのが幸せなのよ」
「分かった、分かった」
「この仕事を分かってくれる人じゃないとダメなのよ〜」
「分かったって、鼻水出てるって」
「花粉症だから出ちゃうのよ〜」
「もう飲むなって」
私はへべれけになってその日を終えた。
目が覚めたら朝の8時だった。
うわっ、ヤバっ遅刻だ。
あれ?自分の家じゃない。
いつもの部屋だ。
そっか、また会社に泊まったのか。
それにしても飲み過ぎで頭が痛いよ〜
へ?
自分の体を見て驚いた。
ハ・ダ・カ・?
ええ〜っ!
ウソだよね、まさかだよね、酔っぱらった勢いでしちゃった?
全然覚えていない……最悪だ〜
『トントン』
「ナツメ、起きたか?」
「いま、今起きた」
「一応9時から営業だからな」
「分かってるよ」
明らかに動揺していた。
でも、パンツは穿いていた。
私は慌てて顔を洗い、着替えた。
「社長、おはようございます」
「わざとらしいわ、この泥酔女」
「ひどっ」
「大変だったんだぞ、お前を運ぶの」
泥酔した私は、道ばたで座りだし歌を歌った。
歌い終わったら、靴を脱ぎ車道に向かって投げつけた。
彼は慌てて拾いに行き、タクシーに轢かれそうになった。
そして、彼に負ぶさりこのマンションにたどり着いた。
トドメに玄関に入った瞬間にゲロって、彼のお気に入りのスニーカーを葬った。
私は彼に何度も謝ったそうだ。
お詫びに脱いで裸を見せると言って脱ぎだした。
あと一枚というところで倒れ込むように眠ったそうだ。
「ナツメ、少し仕事減らせ」
「大丈夫だって」
「ストレス溜まっているだろ」
「減らされる方が溜まるよ」
今の私は仕事が生き甲斐なの。
モニターに向かって没頭する自分が好きなの。
「分かった、その代わりカップ麺と明太子はしばらく食べるな」
「あい」
「それと、いい歳こいて乙女ちっくなパンツは穿くな」
「……へい」
彼は何事もなく仕事を始めた。
私の裸については何一つ触れなかった。
それはそれで凹んだ。
二人はそれぞれ自分の仕事をこなした。
ほとんど会話もなく、静かな空間を共有した。
気が付けば、日が暮れていた。
「今日は帰れ」
「もう少しなんだ」
「今日は帰れ」
「分かった」
途中で止めるのはイヤだけど、言われたとおりにした。
久しぶりに自分の家に帰ろう。
ほぼ私の部屋になってしまった一室。
洗濯しないといけない服などを大きめの鞄に詰めた。
スーツは帰り道のクリーニング屋さんに持っていこう。
「お先ね」
「お疲れ」
玄関のドアを開けた瞬間に、彼の携帯が鳴った。
「翠?……久しぶりだね」
彼のもう一人の彼女、希ノ瀬翠…彼とは高校の同級生だ。
彼女なのか、元カノなのか今イチよく分からない。
ちょくちょく会っていたと思えば、全然会わなかったりする。
隙がないって感じのクールビューティだ。
◇◇
希ノ瀬翠…高校の同級生で元彼女。
色々な面で僕に初めてを教えてくれた。
結局はフラれてしまったけど、未だに会ったりする。
「忙しいの?」
「けっこうね」
「祐真も今や社長だもんね」
「そんな大げさじゃないよ」
「私って失敗したかも」
「よく言うよ」
たまにあったと思えば、微妙な言い回しで揺さぶる。
だけど、たまに会うと彼女がとてもかわいい。
近づくと離れて、離れると近寄ってくる。
「今日は帰りたくないかも」
「オレは帰るよ」
「う〜意地悪言わないでよ」
翠は美人でかわいいけど、こんな付き合い方はそろそろキツくなってきた。
いつまでも学生の延長上ではいられない。
一応、会社を経営している人間でもあるし。
僕は実家で飼っている三毛猫の不二子を思い出した。
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