Nazca Novels イヌ科の彼女・ネコ科の彼女・イネ科の彼女

第3話 イネ科の彼女

いつものように、当たり前のように時間が過ぎた。
私は毎日のほとんどを会社で過ごした。
たまに自分の家に帰るだけの生活。
だけど、私は今の生活に満足している。
好きな仕事に打ち込めるから。

今日は日曜日、休みだけど午前中は仕事をした。
特に急ぎの仕事はなかったけど、家にいるのも暇だから会社に出た。
午後から何をしようか?
結局、特に行きたいところもなかったので本屋に立ち寄った。
ファッション誌を立ち読みしてみた。
ほー最近はこんなのが流行っているのか……
もう何がどう流行っているかが分からない。
私はデザイン関係とPC関係の図書を購入した。

『ガチャ』

部屋にはいると母親が来ていた。
母は掃除と洗濯をしていてくれた。

「仕事は順調なの?」
「うん、もう忙しくて大変」
「それは良かった」

その割には良かったって表情じゃない。
何か言いたいことがあるみたいだ。

「あんた、誰かいい人いるの?」

やっぱりそうきたか。

「いないよ、別に焦っていないし」
「少しは焦りなさい」
「今は仕事が楽しいのよ」
「来週は京香ちゃんの結婚式でしょ」
「そうだけど」
「だから焦りなさい!」
「……へい」

ポツポツと周りの友達がお嫁に行きだした。
母は早く孫の顔が見たいと言った。
だからといって婚活する気持ちはない。
最近の結婚年齢は男が32で女が29位って聞いた。

全然余裕じゃん。

「それは相手がいればの話でしょ」
「おっしゃるとおりです」

母の世代からすると、今の結婚年齢が高いのは理解できる。
だけど、時代が違うよ。
別に結婚だけが幸せとは限らないしね。
私は今の仕事をまだまだ続けたいも。

彼氏はいらないよ。
やっぱ欲しいかな?
こんな生活じゃすぐに逃げられるよ。
こんな私を理解してくれる人でないとダメだよ。
そんな人ってどこかにいるのかなぁ〜


◇◇


ウェディングドレスを着た京香はとてもキレイだった。
みんなに祝福を受ける京香は幸せに満ちていた。
まだ結婚していない友達仲間も京香の美しい姿を見ると、結婚=幸せになってしまい燻っていた結婚願望が激しく燃え上がってきていた。
女もけっこう単純な生き物なのである。

ある意味一番盛り上がるイベント…ブーケトス。

チャペルの外に出た。
今日は朝から風が強かった。
私は隅っこに立ち男性陣と一緒に見守った。

私には関係ないな。

京香は後ろ向きになってブーケを空に放った。
ブーケは鳥になり風に乗った。

「くしゅんっ」

花粉症の私はいい場面で鼻水を垂らした。
慌ててバッグからティッシュを出して拭いた。
あれ?また出そう。

「くしゅんっ」

再び鼻水が出てきた。

『がふっ』

私の顔面に風に乗ったブーケが直撃した。
私は偶然にもブーケをキャッチした。
それはキレイなブーケだった。

『鼻水まみれのブーケ』

周りの人がドン引きしていたのはいうまでもない。
それを見ていた京香は私にウィンクして手を振ってくれた。


◇◇


「どうだった?結婚式」
「私ね、ブーケをキャッチしたのよ」

ブーケをキャッチした経緯を彼に説明した。

「ナツメ、お払いしてきた方がいいんじゃないか」
「悲しくなることサラッと言わないでよ」
「次はナツメの番だといいね」
「絶対ムリ」

相手がいないことには始まらないでしょ。
私はダラダラと愚痴を言いながら仕事をこなした。
彼は相づちを打ちながら付き合ってくれた。

「プリントアウトしてみたけど、こんな感じでどうかな」
「どれどれ、見せて」

「くしゅんっ」

くしゃみと同時に鼻水が出た。

「ナツメ……冷たい」
「ごっゴメン」
「なんの花粉症だよ、もう夏だぞ」

私はスギ花粉ではない。
花粉症っていうのはスギだけじゃないのだよ。

「イネ科の花粉症」
「イネ科か」

はい、私はイネ科です。


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