Nazca Novels カネゴンと親友

第1話 カネゴンも固まる

期待と不安を胸に新しい第一歩を踏み出した一人の女の子。
この春、めでたく女子高生になった。(現代社会においてある意味最強)
今日は入学式で彼女は緊張しまくっていた。
ちなみに彼女の入学した高校の名前は札幌中央高校である。
大学と競馬場の間に位置する進学校だ。
4月といっても札幌の街はまだまだ寒く、軒下には雪が残っている。
競馬場の向こうに見える山々には、春はまだ訪れてはいない。

「緊張しすぎて足がむくんできた」

緊張と足のむくみの因果関係は分からないが、彼女は足のむくみが悩みの種である。

この春、彼女は学園都市線が走る高架横のマンションに引っ越してきた。
すぐ近くに駅もあり、スーパーもある。なかなか良い物件である。
学校まで10分で行けるのでギリギリまで寝ていられる。

「コンビニがもっと近くにあればいいのになぁ」

贅沢を言えばきりがない。我慢しなさい。
ここに引っ越してきたので一緒に行く同じ中学の友達はいない。
彼女は寂しくトボトボと学校に向かった。
そして、約10分後に学校に到着した。

「うわー、誰も知っている人おらへんがな〜」

思わず声に出して言ってしまった。(なぜ微妙に関西弁なのだ?)
残念ながら、彼女のクラスには同じ中学卒の知り合いは誰もいなかった。

「では体育館に移動します」

先生が生徒達に体育館に行くように促した。
緊張気味の生徒達は廊下に出て体育館に向かった。

「……お願いをして、挨拶にかえさせていただきます」

校長の話はどこの学校でも長いものだと、彼女は足のむくみを気にしながら思った。
話が長すぎると印象に残る言葉も忘れてしまうぞと、彼女は心の言葉を校長にぶつけた。

「では教室に戻ります」

生徒達は再び教室に戻った。
教室では担任の先生の自己紹介から始まった。

「せっかくなので一人一人、自己紹介をしていきましょう。まずは男子から」

教室中に緊張の空気が漂った。
アイウエオ順に男子の自己紹介から始まった。
しかしながら、このイベントは重要である。
男子は女子を女子は男子の品定めの場でもあるからだ。
あっ、この人カッコイイとか、この子かわいいとか、見た目の順位付けを各々が自分の脳にインプットする。

「滝田英徳です。好きな芸能人はガッキーです」

おーこれはこれは、イケメン君じゃないかい。

まるで彼女はテレビドラマのイケメン俳優を見ているおばさんのようだった。
あら〜この子ハンサムだわね〜見たいな感じだ。
このクラスの女子の何人かが滝田君をロックオンしたのはいうまでもない。

「次は女子ね」

阿部さんという子の自己紹介から始まった。
緊張しているのが伝わってくる。

「はい。次は金子さん」

いよいよ彼女のイントロデュースタイムだ。
足のむくみがどうのこうのなんて言っていられない。

「金子真里です。エレクトーンを小さいときから習っています。趣味は昔のお笑い番組のDVDを観ることです」

緊張しすぎてワケの分からない自己紹介になってしまったことを彼女は猛省した。
これではお笑い好きで、エレクトーンを弾けると自慢する嫌な女ではないか。
こんなことなら昨夜考えてこれば良かった……あとの祭りである。

「霧園美空です。よろしくお願いします」

彼女の次の人が自己紹介をした。
アイドル顔のかわいい女の子であった。
おまけに声もかわいい。

私も男だったら完璧に惚れるわ。

彼女は心の声でつぶやいた。
男子のほとんどが霧園さんに一目惚れしたであろう。

「もう少し何か言おうよ、霧園さん」

先生がそう霧園さんに言った。
クラスの野郎どもも同じ意見であろう。



「えーっと、まだ処女です」


霧園さんを除く先生と生徒達全員が固まった。
マンガでよくある灰色になって固まっている状態である。
そんなみんなをよそに、何事もなかったように霧園さんは席に座った。

「この子ただ者じゃない」

彼女は瞬時にそう思った。
そして、霧園さんに関わってはいけない……そう判断した。
あの子とは住む世界が違うような気がする。
ついこの前まで中学生だった彼女には、インパクトがありすぎた言葉だった。

関わってはいけない……しかし、夏休み前には霧園さんと激しく関わる運命になっている。
残念ながら彼女は、この時点でそんな運命が待っているとは知る由もなかった。

金子真里の運命は如何に?

水色の過去とオレンジ色の未来 』このおバカな二人も登場しています。

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