Nazca Novels カネゴンと親友

第2話 高校でもカネゴン

高校生活3日目に入った。
まだまだクラスに緊張感が漂う。
それでも仲良くなろうと、みんな努力していた。
各々が緊張しながらも微妙な会話を試みている。
話が合えば一気に友達になれる。
ハズレれば距離をおかれてしまう。
人付き合いは、年齢に関係なく重要なものである。

得意の漬け物でもお裾分けしたら仲良くなれるかなぁ。

金子真里、漬け物作りが得意な女子高生……なかなか渋いと思う。
しかしながら、隣に引っ越ししてきた中年おばさん的発想である。
そんなことをしたらドン引きされるのが関の山だ。

「あーいたいた。カネゴンやっほー」

中学の同級生がやってきた。(二人)
後ろのドアから元気に手を振ってくれている。
彼女は周りの反応を窺いながら手を振り返した。

カネゴンとは呼ばれたくない。

新生活からはプリチーに呼ばれたい願望があった。
カネリン、マリリン、真里タン、まータン。

「カネゴンって呼ぶなって? 無理」

即答で却下された。

「今さら何言ってんのよ! ひょっとしていきなり恋しちゃったの? 誰? 誰?」
「分かった。あの人でしょ」

どうしてもそっち方面に話を持っていかれる。
中学の同級生二人は好き勝手に話を進める。

「悪い、後ろ通らせて」
「ごめんなさい」

3人で教室の扉を塞いでいた。
一人の男子生徒が窮屈そうに通り抜けていこうとした。

「この子カネゴンです」
「は?」

中学の同級生がその男子生徒に彼女を紹介した。
突然の行動に半開きの口で固まった。

「滝田です。ども」

彼は軽くお辞儀をして立ち去っていった。
彼女も半開きの口のままでお辞儀をした。

「カネゴン、あの人カッコイイよ」
「あれ? どうした…の?」

『ギロッ』

半開きの口のまま、呪い殺す勢いで睨んだ。

「カネゴンが怒った。それ逃げろ〜」

二人は風のように去っていった。
逃げた二人の後ろ姿を見ながら、彼女は黒魔術師になりたいと思った。

ヤツらの尻の穴に雷を落ちろ。

頭じゃなく尻の穴に……相当怒っていた。
彼女は自分が真面目な女子生徒だと思っている。
どうして自分の周りはノリが軽いのが多いのだろうと凹んだ。

「じゃあねアキ」
「バイバイ」

そんな彼女の前にアイドル顔の女の子が現れた。
その女の子は霧園美空さんだった。


何でアキなの?


金子だからカネゴン。
理由もへったくれもない。
霧園さんはアキ。
そう呼ばれる理由があるはず。
かわいい顔をしているから、アキと呼ばれるかわいい理由があるはず。

秋は紅葉が美しい。
色鮮やかな山々を流れる清流のような霧園さん。
きっとそんなイメージでアキと呼ばれるようになったんだろう。
そうロマンチシズムに酔いしれながら勝手に妄想した。

この子、本当にかわいいなぁ。

彼女は霧園さんの顔を見ながらそう思った。
霧園さんは彼女のややエロおやじ的な視線に気が付いた。
そして、目が合った。
彼女は焦ってしまった。
しかしながら目をそらすのは失礼ではないか。
新しいクラスメイトでもある。
これから一年間、学校生活を一緒に過ごすのだ。
少なくとも表向きには仲良くしたい。

「おはよう」

彼女は思いきって霧園さんに挨拶をした。
霧園さんは笑顔を返してくれた。

くぅ〜、かわいい笑顔だなぁ。

その笑顔を見て自分の顔が赤くなっていくのが分かった。
一目惚れした男子生徒みたいな状態である。




「おはようカネゴン」




さっきの会話、あんた聞いていたのかい!
一気に脱力していった。

コイツやっぱり只者じゃない。
このままではKOされてしまう。
打ち合いにいったボクサーが距離をおいた状態になった。
あの笑顔を真に受けてしまった自分を後悔した。

「カネゴンってかわいいネーミングだね」
「……そうかな」
「ねえ、かわいいよね」

霧園さんはそばにいた男子生徒に声をかけた。

「うん、かわいいと思うよ」

少しだけ照れたような顔で男子生徒は答えた。
彼は先ほどの滝田君だった。

下校時間 ――

「じゃあなカネゴン」
「……うん、バイバイ」

滝田君が教室を出て行った。

翌日の朝 ――

「おはようカネゴン」
「……おはよう」

下校時間 ――

「また明日なカネゴン」
「またね」

クラスで一番のイケメンの滝田君。
彼の発する言葉の威力は絶大だった。
クラスの女子は何の違和感もなくカネゴンと呼ぶようになった。
やがて男子からも普通にカネゴンと呼ばれるようになった。

そして1ヶ月が経過した。
もう完全にカネゴンだ。
先生以外、金子さんと呼ぶ人はほとんどいない。

「やっぱカネゴンって呼ばれているじゃん」
「あんたらがカネゴンって呼んだからでしょ」
「ねえ、あのイケメン君もカネゴンって呼ぶの?」
「滝田君のこと?」
「うん、うん」

友人達はキラキラした瞳で滝田君を見た。
彼女はメラメラした気持ちで滝田君を見た。

アイツがカネゴンって広めた張本人だ。

彼は彼女の殺気だった視線に気が付いた。
そして、吸い寄せられるように彼女に近づいてきた。

「キャーこっち来たよカネゴン」
「あんたら朝から元気ね」

呆れながらそう言った。

「おはようカネゴン」
「……おはよ」
「調子悪いのか? 元気ないぞ」

元気が出ないのはお前のせいだよ!
と、彼女は心の中で叫んでいた。

「カネゴンって呼ばれたくないんだって」

友人の一人が彼に言った。
彼は少し驚いたような顔をした。

「オレ知らなかったよ、なんかゴメン」

今度は焦ったような顔で謝った。
今さら遅いわっ! すっかりカネゴンじゃい。
彼女は心の中で怒りを彼にぶつけた。

「真里って呼んであげてね」
「ちょっ、ちょっとやめてよ今さら」

いきなりの展開に今度は彼女が焦った。
カネゴンから真里……これはこれで恥ずかしい。

「分かった」

分からんでいいって!
やめて、真里なんて呼ばれたらムッチャ恥ずかしい。
てか、普通に金子で呼んでくださいな。

放課後 ――

「じゃあな、真里」

恥ずかしそうに、でも精一杯の勇気をもって滝田君は言った。
なかなかの青春状態だ。

コイツ……意外と単純なヤツだな。

彼女は彼をそう分析した。
しかしながら、男心というやつを理解していない。

金子真里……意外と鈍感なヤツである。

彼女が彼の気持ちを知るのは一年以上も後になる。
まだまだずーっと先の話だ。



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