Nazca Novels 雪原に舞い散る赤い雪

第31話 ヤキモチ

ポケットの中の携帯が震えている。
取りだして見てみた。
純夏ちゃんからのメールだった。

『今どこにいますか?』

僕は地下鉄駅を出たところだとメールを返した。
太陽は西に傾き、気温も和らいできている。

『すぐ着きますから待っていて欲しいな』

僕は少しだけ戻って、スーパーの玄関横のベンチに座った。
西日がガラスに反射して背中が熱かった。
僕と同じような学生達が楽しそうに会話しながら通り過ぎる。
しばらくはテストの心配がないので、みんな解放されたような表情に見えた。

「お待たせしました」
「遅かったね」

彼女は何も言わず笑ってくれた。
そして、隣に腰を降ろした。

「お腹空いた」

かわいい顔でボソッと呟いた。
少しだけの沈黙。

「何か食べてく?」
「はい」

二人でハンバーガーを食べた。
店の中は涼しくて、少し寒いくらいだった。
僕はぼんやりと彼女の胸元を見ながらシェイクを飲んだ。
9月になったら夏服も終わりだな。
厚着よりは薄着の方が男としてはいいに決まっている。
そんなアホなことを考えていた。

「英太さん、エッチなとこ見てる」

その視線に彼女は気が付き、ジト目で僕を見た。
慌てて視線をそらしたが遅かった。

「また今度見せてあげますね」

いたずらっぽい表情で彼女が言った。
僕は固まったままうなずいた。
恥ずかしさと期待感がブレンドされた気持ちになった。

「帰ろっか」

店を出て二人は家に向かって歩いた。
二人の住むマンションが大きく見えてくる。
それに反比例するように会話が少なくなっていった。

「今日、元カノと一緒でしたよね」

ボソッと彼女は切り出した。
うつむき加減に僕の足もとを見た。

「見てたのか?」
「うん」

悲しそうな表情で彼女は答えた。
そして今度は真っ直ぐに僕を見つめた。

「オレの目の前で倒れたんだ」

僕はどうして志緒理と一緒に帰ったのかを説明した。
別に彼女に話すことでもないと思いながら……
だけど、話さないと彼女も納得してはくれないとも思った。

「あの人と英太さんは別れたんですよね」
「……そうだね」
「どうして優しくできるのですか?」

志緒理にベッタリしていれば、今頃どうだったのだろう?
仲の良いカップルでいられたのだろうか?
それとも、やっぱり別れていたのだろうか?

そんなこと今さらどうでもいい。

変わってしまった志緒理を見るのが辛い。
笑わない志緒理がかわいそうでならない。

あの日の夜……
サヨナラを突きつけた夜……

ただ普通に別れればよかった。
罠に陥れることなんてしなければよかった。
あんなに変わってしまうなんて思いもしなかった。

あの日の夜を後悔している。

僕は彼女に思っていることを話した。
彼女は黙ったまま聞いてくれた。

「そうだったんですか」
「うん。だから放っておけなくて」
「……」

会話が止まってしまった。
黙ったまま二人はトボトボと歩いた。
違う話題に変えようにも何も思いつかなかった。
重たい空気のまま、マンションに着いてしまった。
エントランス前、僕は彼女に手を振って入ろうとした。

「えっ?」

急に彼女は僕の手を引き、マンション横の駐輪場に連れて行かれた。

「私……なんかモヤモヤしています」
「オレなんか変なこと言った?」
「いいえ、何も言ってません」

マンションの1階に設けられている駐輪場。
そこは少し薄暗い殺風景な一つの空間。
彼女の声が響き渡る。
思いつめたような表情で僕に近寄ってきた。

「あ…」

彼女は僕の右手を取り、自分の胸に導いた。
そのまま僕に背中を向け、後ろから抱きしめているような感じになった。

「ヤキモチかな」

ポツンと彼女は呟いた。
右手に感じる暖かくて柔らかい感触。
優しい女の子の香り。

「英太さん」

振り向いた彼女は僕の唇を求めてきた。
重なる影と唇。
右手はブラウスのボタンを一つ外した。
そして、もう一枚の障害を潜り抜け直接肌に触れた。

彼女の声が響き渡る。

誰か来てもおかしくない状況で二人は止まらなかった。
彼女は力が抜けて僕に寄りかかってきた。

「私もかまって欲しいな」
「うん」
「ホント?」
「ホントだよ」
「うれしい」

薄暗い空間。彼女の舌が絡まる。
僕の指先はさっきとは違う場所を求める。

「私、英太さんには何でもしてあげるよ」

まだ僕は本当の彼女が見えていなかった。

ロリポップ!
この二人…百合? それとも……カネゴンと親友

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