Nazca Novels 水色の過去とオレンジ色の未来

第1話 春の行き先は…

5月3日
PM 3:18⇒
目が覚めたら午後3時過ぎだった。
とりあえずテレビのスイッチを入れた。
競走馬がパドックを歩いている。

「天皇賞か……」

別に競馬に興味はないけど、何故か幼い時の記憶が浮かんできた。

家族でドライブに行った。
今思えば引退した競走馬を見に行くのが目的だったのだろう。
海沿いの国道を走っているうちに、いつの間にか周りはサラブレッドが牧草を食べている風景になっていた。
お目当ての牧場に着き、両親と姉はカメラを片手に写真を撮っていた。

後ろから視線を感じた僕は後ろを振り向いた。
子馬がじーっと見ていた。
幼かった僕はすぐに子馬に近づいていった。
牧柵脇の草を取り、恐る恐る差しだそうとしたら横から母馬がヌーッと顔を出してきた。
「うわっ!」

驚いた拍子に尻もちをついた。
幼稚園児だった自分には、母馬はとてつもなく大きかった。
草を握りしめた状態で動けなくなってしまった。

「大丈夫?」

女の子の声が後ろから聞こえてきた。
三つ編みで明るいオレンジ色の帽子と、
明るいオレンジ色の長靴を履いていたのを今でも覚えている。
何も言えず、どうしていいのか分からず、ただその子を見つめていた。
女の子は優しく「大丈夫!怖くないよ」と言ってくれた。

「ホント?」
「ホントだよ!見てお馬さんの目」
「お馬さんの目?」
「うん。とっても優しい目をしてるでしょ」

確かに穏やかでとても優しい目だった。
その子のお陰で無事に草をあげることができた。
自分があげた草を食べてくれたことが、とても嬉しかった。

「ありがとう」
「うん!」

子馬と母馬の前で写真を撮った。
照れている僕の横には、笑顔の女の子がいた。

ゴールデンウィークが始まった。今年の予定はバイトのみ。
さて、バイトに行くか。
寂しい高校3年の春だ。


PM 4:45⇒
やっと着いた……やっと着いたよ涼香庵
涼香庵って何だか、お蕎麦屋さんみたいな名前だよね〜
おばさんいるかな〜

『ピンポーン♪』

「こんにちは〜」
「はーい。あら、リオちゃん!おっきくなって、元気だった?」
「はい。おばさんも元気そうですね」
「元気、元気って誰?おばさんって、いとこのお姉さんでしょ」

よく考えたら、いとこのお姉さんだよ。

「そっか、あの〜ちー姉さんも元気そうですね」
「元気、元気ですぞぉー」
「……」

2階からドタドタと聞こえてきた。
ちー姉さんの愛娘の千亜ちゃんだ。

「千亜ちゃん元気だった?おっきくなったね〜」
「元気だよ。ちあ年長さんになったんだよ」
「えーじゃあ来年は小学生だね」
「うん。おばちゃんも元気だった?」
「元気だったよ……ん?」

おばっおばさんって誰?あたし?あたしの事っすよね?
でもその通りだよ。
なんで〜まだ17なのに…

「リオお〜ばちゃ〜ん、お部屋を案内するねハハハ」
「はい、はいです、ちーねーさん」
「リオ姉ちゃん、ちあそっちの荷物持ってあげる」

げげーっ既に先手を打たれていたのか……ちー姉さん恐るべし。

「千亜ちゃんありがとね」
「どういたしまして♪」

ニッコリと千亜ちゃんが微笑んだ。

「リオちゃん今日の夜は歓迎会だよ」
「いいよ、そんなことまでしなくても」
「遠慮しないの、顔合わせも兼ねるから」
「顔合わせ?」
「そっ。他の住人さんに紹介しないとね」

いじめられたりしないかなぁ。
みんな優しい人だといいんだけど……

「うわーなんだか緊張するな〜」
「大丈夫だよ、みんないい子だから」
「でもゴールデンウィークだよ、皆さん旅行とか遊びに行っていたりしてないの?」
「それ以上追求したらダメだよ」
「えっ?」

ちー姉さんはそれ以上は何も聞くなって顔をしている。

「それ以上追求したらダメだよ」
「はっはい、そうしますです」
「よろしい。楽しみだな〜」

何だか『波乱』の二文字が頭の中で揺れています
どうなるのかな〜高校3年の春は。

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