Nazca Novels 歯医者さんとヴァンパイア

最終話 女神だけが知っている

ずっと前から彼の創る物語が大好きだった。
この前読んだ作品は、泣けるほどハッピーエンドだった。

「オレはヒーローなんてなれないし、たくさんの人を救える才能なんてものもない」

彼女は何も答えられず、ただ彼を見ているだけだった。
彼の創る物語は、在り来たりの毎日に埋もれた自分を救ってくれた。
物語の主人公にいつも自分を重ね合わせた。

無機質な世界は彼女一人だけの世界。

現実から隔離された彼女だけの世界は、彼女の作る幸せな時間。
変わらない毎日から逃れるためのオアシス。
見えない未来に希望を繋げるひとときの空間。

お願い、私をここから連れ出して。

都会の街は寂しく、誰しも心が折れそうになる。
折れそうになる心を体で繋ぎ合わせ、ひとときの温もりを求める。
例え心が通じ合っていなくても、寂しさから解放されたいから。
孤独に震える心を忘れたいから。
それが間違いであるとしても、誰も責めることはできない。
現実がこれだけ荒れ果て、人の心を蝕んでいるのは事実だから。

「オレが君を守ってあげる」

彼女の心の中にある一人だけの世界。
彼の言葉が魔法となり、その世界は静かに消えていった。

「一人にしないで」
「オレはどこにも行かないよ」

そう言って彼女を抱きしめた。
彼女は優しさに包まれ瞳を閉じた。
唇で感じる彼の温もり。

「君と出会うためだったんだ」
「私と出会うため?」
「オレはそう信じている」

夜が明けようとしていた。
近くにある教会の窓が、少しだけオレンジ色になった。
教会の尖塔に女性らしき人影が見える。

「お幸せに」

朝日が顔を出してきた。
鳥たちが囀り始めた。
眠っていた街が目覚めだした。

病んだ心が愛を壊している現在。
愛が生んだ宝物の命を簡単に奪う現実。
女神はこの現実を憂い、そして悲しんだ。

きれいな心を求めている未来を託せる人へ ――

女神はそんな彼女を選んだ。
そして、見届けた。

「私はヴァンパイアじゃないんだけどなぁ〜ヴァンパイアに満月とか関係ないし

そう言ってスーッと朝靄の中に消えていった。
これからの未来を願いながら。

「あなたは女神様に会ったのよ」

彼の腕に抱かれながら彼女は言った。

「女神…か」
「一緒になる運命を与えてくれたのよ」
「そうだね」
「きっとそうよ」

カーテンの隙間から日の光が差しこめる。
その光は二人を優しく包んだ。
裸の二人は抱き合いながら眠った。

静かに二人だけの世界が扉を開けた。


満月の夜 ――

今日もどこかで誰かが選ばれているのかもしれない。
これからの未来に希望を託して。
出会いの形は女神だけしか知らない。
不思議な出会いをしたとき……
それは与えられた運命かもしれない。
だって女神は意外とお茶目さんだから。


「今度の設定は何にしようかな〜」


ねっ、やっぱりお茶目でしょ。

−Fin−

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