Nazca Novels 恋鍋〜鍋ちゃん子の恋

第2話 図々しい男

「絵美菜がどうって聞いてきたの」
「なんで私に?」
「ちゃん子って小学から一緒でしょ」

この高校には私とアイツの他に同じ中学出身はいただろうか?
私には他の人の記憶がない。
この高校は本来行くべき学区ではないからだ。
なのに、偶然にもアイツと同じ高校になってしまった。
しかも同じクラス…なんでアイツまで来るのよ。
神様は私を相当嫌っていると思った。
アイツは当たり前のように私をちゃん子と呼び、ちゃん子は広まり現在に至っている。
泉菜ちゃんとか、せんなとか、セナとかカワイらしく呼ばれたかった。
それでもダメなら、百歩譲ってナベちゃんで呼ばれたかった。

「昔から酷い男だよ」
「そうなの?話していると楽しい人だけどね」
「女はそれに騙されるの」
「騙された子いるの?」
「他の学校とかにたくさんいるよ」
「そうなんだ」

6月の終わる一週間前に私はウソを言った。
それ以来アイツは女癖が悪いというレッテルを貼られた。


夏休みにアイツは彼女と別れた。
彼女の名前は由真。
同じ中学で私と仲がよかった。
別れた次の日、電話が来た。

「好きな人がいるって」

由真はサバサバした口調で言った。
未練はもう無いとも言った。
ギクシャクした日々を過ごしたから、別れてよかったと。

勝手な男だ。


◇◇


高校に入って二度目の二学期。
修学旅行が迫ってくると、男女とも慌て始める。
強い想いを伝えようと努力する人。
とりあえずの相手を作ろうと目論む人。
どこの学校も同じで、即席カップルが増え始めてくる。
何人かの女子もアイツに告白していた。

あのお調子者の彼女には誰がなるのか……
かわいそうな人は誰なのかな?
少しだけ楽しみだった。

美世は秘めた想いを好きな人に伝えた。
彼女の想いは見事に彼の心に伝わった。
美世はうれしさのあまり、泣きながら私の胸に飛び込んできた。

私もこんな綺麗な涙を流してみたい……

いつの日からだろう?
こんなひねくれた性格になったのは。
それはたぶん身長が止まったときからだろう。
追い打ちをかけるように『ちゃん子』と呼ばれるようになった。
……やっぱアイツのせいだ。
どこをどう考えてもアイツが悪い。
いつか必ずアイツに償ってもらわねば。
私の大切な今を。

「ちゃん子、また黒いオーラが出ているよ」

現在、幸せ一杯の美世に言われた。

「私のオーラがレインボーになる日は来るのかな?」
「好きな人いないの?」
「好きな人ねぇ〜」
「なんかおばさん臭いよ」
「このままおばさんになるのかな〜私」
「恋しようよ」

今まで、コンプレックスと闘いながら勉強に励んできた。
コンプレックスの怒りはアイツにぶつけて日々過ごしてきた。
なのに……ほとんどアイツの言いなりになっている。

ノートを貸して。
その答えを教えて。
オレのパンもついでに買ってきて。
真っ直ぐ遊びに行くから家に鞄を届けて。
腹減ったから何か食うの付き合って。

振り回されている。

お前、勉強ばっかだと背縮むぞ。
髪はもう少し短い方がいいぞ。
もう少しスカートは短い方が背高く見えるぞ。
男見る目がないな〜お前は。
頼むって、愛してるから。
まぁ、オレがいるからいいっしょ。

言いたい放題言っている。
図々しい男だ。

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