第5話 無理な名案
「最近よく泊まるわね」
「母さんの作るご飯が一番美味しいからね」
「何かあったの?」
「ないよ、会社も順調だしね」
「ならいいけど」
一日中顔を向き合わせていると、ナツメもさすがにキツいだろう。
僕も一日中じゃ正直なところキツいよ。
かといって家に帰れとしつこく言うのも気が引ける。
けっこう気を遣っているのだよ。
アイツ…凄く頑張っているし、アイツがいないと困るしね。
だけどな〜このままじゃアイツにとっても良くないよな。
親だって嫁に行って欲しいと思っているだろうし。
30目前になると、急に寂しいって思ったりするよ。
30なんてあっという間に来るぞ。
なんか責任感じちゃうぞオレ。
ナツメの良いところ……
オヤジ臭いところがかわいいと思うけどな。
それは良いところは言えないか。
何か対策を練らないといけないな。
◇◇
今週一週間、私は会社に泊まるのを禁止された。
新しい彼女でも泊まりに来るのかな?
今週は毎日家に帰らなければならない。
とっても面倒くさい。
それに微妙に寂しい。
彼が結婚したらどうなるのだろう?
会社はどこか新しい場所に移さなければならないよね。
普通のオフィスビルだったらお泊まりできなくなるよね。
え〜それってイヤだよ〜
今のままが一番いいよ。
そう考えながらお泊まり禁止週間最後の夜を過ごしていた。
「来週からは泊まってもいいのかな?」
『ピリリリリー』
携帯が鳴った。
「ナツメ、飯食いに行くか」
「いいの?」
「行けるか?」
「行く、行く〜」
一週間を頑張って自炊で過ごした。
私ってけっこう頑張ったよ。
って、当たり前か……
久しぶりの外食だからテンションが上がった。
私は急いで着替えた。
顔も塗った。
よしゃOKだ。
晩飯だ〜!
私は玄関のカギを掛けた。
あれ?なんかガス臭いような…
まっいいか。
100mほど歩いたところに祐真がいた。
「よっ」
「あれ?来てくれたの」
「まあね」
なんか凄くうれしいかも。
「この一週間、いいことあった?」
「いいこと?」
「出会いがあっとか」
「どこにも行っていないも」
「……どっか行ってこいよ」
「なんで怒っているの?」
『ドッカ〜ン』
爆発するような音がした。
足下まで響いてきた。
「えっなに?」
「ガス爆発でもあったんじゃないのか」
「……ガス爆発?」
軽くイヤな予感がした。
でもまさかね。
「ちょっと付き合って」
「ん?」
来た道を戻った。
角を曲がった途端、軽いイヤな予感は重たい現実になっていた。
ウソやん!
◇◇
私は自分の居場所を失ってしまった。
やっと落ち着いたのは木曜日になってからだった。
彼は私の分の仕事もこなしてくれた。
「ゴメンね」
「気にするな、ここはほとんどナツメの家みたいなもんだ」
「ありがと」
私は新しい部屋が見つかるまで、しばらく居候することになった。
明日にでも不動産屋さんに行ってこよう。
−翌日−
「いい物件あった?」
「いいところは家賃が高いよ」
今まで住んでいた城は家賃も安くて気に入っていた。
だけど、最近は余計なオプションが多いのか家賃が高い。
部屋探しって面倒臭いな〜
ここに下宿代支払って住ませてもらおうかな。
「却下!」
「じょ…冗談よ」
言った瞬間に却下されたよ。
ウソでもいいから考えたふりくらいしてから言ってよ。
だけど、そのうちお泊まりもできなくなる日が来るんだよね。
彼だっていずれは誰かと結婚するだろうし……
そうだ!私がお嫁さんになっちゃえばいいんだ。
そうすれば、ずっとここにいられるもん。
こりゃエクセレントな名案だよ。
……そりゃムリだよ。
彼とは大学生の頃もそんな雰囲気になったことがない。
当然ながら現在も同じである。
彼はいつも、何か自分の目標に向かって進んでいるみたいだった。
それ以上彼に干渉してはいけないオーラがあった。
よく分からなかったけど、私は彼のその不思議めいたオーラに憧れた。
今現在も彼はそのオーラを発している。
それ以上踏み込んだら、何かを失ってしまう気がする。
私はそれが怖い。
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