第6話 乱夜〜悔朝
あれから3ヶ月が経った。
私はまだここに居候している。
いい物件がないのもそうだけど、どこも家賃が高いので探す気が失せた。
「お前は地縛霊か」
言われ方がエスカレートしてきた。
最近までは座敷童子って言われていた。
「今日は結婚式に行ってくるから」
「帰りは?」
「実家の近くだから帰ってこないな」
今度は誰の結婚式だろう?
この一年で彼も私も結婚式に呼ばれることが多くなってきた。
そういう年齢に自分も周りもなってきたということだろう。
私には全然関係ない。
もし私が机に向かってテストを受けていたとする。
幸せという言葉の意味を答えよと問題が出たとする。
今の私だったらこう書くだろう。
【
聞きたくない雑音
】
◇◇
「先輩を後悔させてあげますよ」
「ちょっとやそっとの幸せじゃダメだよ」
「はい」
「無理したらダメだからね」
「はい、お腹の中に命がもうひとつありますから」
「幸せにね」
今流行の出来ちゃった婚。
来年には彼女もお母さんになる。
彼女はきっといい奥さんになるだろう。
従順で優しく、ホッとさせてくれる。
少し残念だけど、本当に良かったと思っている。
真砂子、結婚おめでとう。
披露宴が終わった。
僕は二次会には行かずに大学のサークル仲間の一人とBARに行った。
「あはは、ナツメらしいな」
「笑い事じゃないぞ」
「お前は社長だぞ、社員の面倒は社長の仕事だ」
「どうしろって」
「お前がもらってやれよ」
「簡単に言うな」
「オレはお互いにそれが一番だと本気で思うけどな」
僕はウィスキーをロックで一気飲みした。
ナツメのことも大事だけど、築きあげてきた会社も大事だ。
僕はギリギリ許せる範囲で彼女を自由にさせてきた。
それは今の会社にとって大事な要素と考えてきたからだ。
彼女には才能と情熱がある。
僕は社長としてそれを失いたくはない。
今を壊したくはない。
◇◇
顔も洗ったから寝ようかな。
う〜ん、なんか物足りないな。
そうだ、今日は晩酌していないや。
お酒飲もうっと。
「かーっ、うめ〜」
やっぱ飲まなきゃ始まりません。
私には酒と仕事があるではないか。
……エッチしたい。
ずーっと、ずーっとしてない。
私って欲求不満なだけかも。
一人でしちゃおうか?
ヤバっ、一人で飲み過ぎた。
『ガチャ』
えっ?
帰ってきた?
「起きていたの?」
「あ…うん」
「旨い酒持ってきたから飲むぞ」
「うん」
「どうした?」
「なんでもないよ」
さっきまでの自分が恥ずかしかった。
恥ずかしいを忘れたいので私は飲んだ。
「飲み過ぎ」
「飲めって言ったじゃん」
「過ぎろとは言っておらん」
酔っぱらい女は彼に絡んだ。
体に燻る欲求不満が拍車をかけた。
「何で私はモテないの〜」
「引きこもりが言うな」
「祐真が引き抜いたからでしょ〜」
「オレのせいにすんなって」
「私ってこんなにいい女なのに〜」
「分かってるって」
「いいや、祐真は何も分かってない」
新堂なつめ…酒癖の悪い女。
だけど、そうなるのは祐真の前だけ。
「エッチしたい」
欲求不満の本音が出た。
言った途端に酔いが覚めた。
「あ…」
お姫様抱っこされた。
『ドサッ』
ベッドに放り投げられた。
ううっ、怒られちゃう……
あっ。
彼とキスをした。
私は彼の瞳に吸い込まれた。
服を脱がされた。
キスをされた。
下着を脱がされた。
キスを求めた。
そして……乱された。
◇◇
「いつまで寝ている」
声で起こされた。
「おはよう……ございます」
恥ずかしくて彼の顔を見ることができなかった。
もうお酒は飲めない……
私は後悔したと同時にこれからのことが心配になった。
この空間の中で私は普通にいられるの?
守らなくてはいけない掟を破ってしまった。
「これから仕事に行ってくる」
「仕事?」
「週に二回、大学で教えることになった」
「そうなの?」
「今日はその打ち合わせに行ってくる」
そう言って彼は出て行った。
何事もなかったように……
いつも彼は先を歩いている。
私はその日だけで精一杯なのに。
彼には絶対に追いつけない。
羨ましいな。
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