第10話 計画的LOST V
「いつもありがとうね」
由菜の口から思ってもいなかった言葉が出てきた。
僕はその言葉を受けて、固まってしまった。
「なんで固まってるのよ」
「いや、こちらこそありがとう」
「なんか変なの」
少しだけ怒ったような表情をした。
そして、コップに日本酒を注いで飲んだ。
「これ美味しいかも」
「未成年だろうが」
「うるさいな」
未成年はグビグビと飲み出した。
どうでもいいけど倒れないでくれよ。
そう思いながら窓を見た。
窓の向こうはすっかり暗くなっていた。
「部屋にも露天風呂あるよ」
「入っちゃおうかな」
「一緒に入ってあげる」
「いいです」
「なによ〜腹立つなぁ」
「オレは巨乳のお姉ちゃんと混浴したいの」
「変態エロ河童!」
とうとう河童になってしまったか。
いくらなんでも女子高生と混浴なんてヤバイだろ。
体は立派な大人なんだから。
平常心を保てるワケがないじゃん。
「じゃあ一人で入りなよ、バカ」
「先に入っていいよ」
「覗くからイヤだ」
結局僕が先に入った。
頬に当たる風が気持ちいい。
遠くまで来て良かったかもな。
由菜は来て良かったと思っているのかなぁ。
こんなおっさんに片足を突っ込んだヤツと来たって楽しいわけがないよな。
ホントは好きな人と来たかったんだろうな。
別にこんな無理しなくてもよかったのに。
なんか悪いことしちゃったな。
「気持ちいい?」
「うん、最高だよ」
『チャポン』
えっ?
なんの音?
「私も入っちゃった」
入っちゃった……じゃないって。
「なんで入ってくる」
「うるさいな〜私だってホントは超恥ずかしいんだから」
「これでも一応は男だぞ」
「……知ってるよ」
「じゃあ隠せよ」
「いいの」
波の音が聞こえてくる。
小さな灯りが由菜を照らす。
湯気が幻想的に彼女を包む。
「やっぱ大人なんだね」
「なんで?」
「だって、いざというときには落ち着いているもの」
「そうでもないよ」
「同い年くらいの男の子だったら、たぶん襲われちゃうね」
「間違いないね」
「だからイヤなんだよ、ガツガツしていて」
そう言いながらお湯に入った。
「風が気持ちいい」
◇◇
浴衣の由菜は布団の上で横になっている。
「飲み過ぎた。気持ち悪い」
「未成年が飲むからだ」
「うるさいな〜女子高生の裸をガン見したくせに」
「勝手に裸で入ってきたんだろうが」
「ふん、バカ」
しばらくしたら寝息が漏れてきた。
コイツ、マジ寝に入りやがった。
大人はここからゆっくりと酒を飲むのだよ。
やっぱまだまだ子供だな。
大人の時間を分かっていないな。
『ハラリ』
うぐっ、この格好がいちばんエッチだ。
寝返りを打った由菜の浴衣がはだけた。
僕は布団を掛けてあげた。
由菜の寝顔を見ていると、僕も眠くなってきた。
朝は思いっきり早かったもんな。
僕は隣の布団に入って寝た。
波の音が心地よかった。
◇◇
「ヤバッ私って眠っちゃった?あ、寝てるし」
『ツンツン』(頬を突いた)
「ん〜っ」
「買ってくれた勝負パンツ穿いたのに〜バカぁ」
「zzzzz」
「今夜は記念日になるはずだったのに……」
『ゴソゴソ』(布団に入り込んだ)
「もの凄く気合い入れてきたのに……来た意味ないじゃん」
◇◇
なんか凄く狭い。
やっぱり横に入り込んできたか。
僕はこっそり立ち上がって窓の外を見てみた。
もう少ししたら朝日が見られるな。
ん?
そこに落ちているのは、この前、渋谷で買ってあげたアレですよね。
けっこうエッチな雰囲気のぶらじゃあっすよね。
なんでこんなところにブン投げているのかな。
えーっと、どうしよう……うん、とりあえずこうしてみるかな。
『パラッ』
布団をめくってみた。
ポヨンポヨン。
そういえば最近は牛乳飲んでいないなぁ。
小学校で牛の乳搾りしに行ったな。
……ムリ、現実逃避できなかった。
コイツは何をしようと模索していたのだ?
そんなに暑くはなかったぞ。
「起きたの」
「お前は起き上がるな」
「いきなり何よ」
「ここに落ちているのを見ろ」
エッチな雰囲気のブラを指さした。
「変態!」
「オレじゃねえ」
由菜は不機嫌な顔で着替え始めた。
窓の外が少しだけ明るくなってきた。
「絶対バカ」
「なんでだよ」
「乙女の本気を踏みにじった」
「はあ?」
「……なんでもないってバカ」
全然意味が分からなかった。
おっ、日が昇ってきたぞ。
「うわ〜キレイ」
見事な朝日だった。
オレンジ色に海が輝き始めた。
「来て良かったね」
「私は不満」
「なんで?」
「私の計画が台無し」
「計画って?」
「……なんでもない」
怒った顔で僕の腕に抱きついてきた。
「イテッ、腕を噛むなよ」
「バカ!」
由菜ちゃん、僕は今まで何人かの女の子と付き合ってきたけど、君ほどワケの分からない女の子には会ったことがないです。
君は僕に何を求めているのでしょうか?
朝食を食べ終わって部屋でまったりしていた。
「今日も海に行くの?」
「そこのお風呂で泳ごうよ」
そう言って由菜は浴衣を脱いだ。
浴衣の下はニットボーダーのビキニを着けていた。
『ジャボ〜ン』
昨日とは打って変わってかわいい水着姿だった。
子供のような笑顔が愛くるしかった。
「似合ってる?」
「かわいいよ」
小さな海で由菜がはしゃいでいた。
「また二人でどっか行こうね」
「うん」
「今度こそだから」
「今度こそ?」
「ううん、こっちの話」
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