Nazca Novels 女子高生の計画的同棲

第9話 風邪が治ったら海に行こう

日曜日の朝は柔らかな感触で目が覚めた。
うぐっ、由菜の胸が腕に当たっている……
朝っぱらからこの感触はマズい。
ん? なんか妙に体温が高くないか?

「由菜、おはよ」
「……寒い」

やっぱり風邪ひくと思ったんだよ。
あんなところに座り込むから。
由菜の体温は38度を超えていた。
ネットで日曜日の当番病院を探した。
新小岩か……車で行くしかないか。
由菜を乗せて車を走らせた。

「食べたいものある?」
「アイスとヨーグルト」

部屋に戻ったのは昼過ぎだった。
由菜を寝かしてスーパーに買い物に行った。
アイスとヨーグルト、果物を買いこんで部屋に戻った。
由菜がベッドで苦しそうにしていた。

「大丈夫か?」
「もうどこにも行かないで」
「行かないよ」
「行ったら死ぬから」
「アホ」
「バカ」

そういう元気は残っていた。
ベッドの上でアイスを食べさせた。

「あーんして」

子供みたいなことを言いやがった。
だけど、おとなしいので扱いやすかった。
今日の僕はいつもより立場が上だった。

「熱が下がらなかったら、座薬使えよ」
「変態、スカトロジジイ」

返す言葉に勢いはなかった。
かわいそうだけど仕方がない。
こんな時こそ僕のありがたさを分かってもらえるチャンスだ。

「汗をかいたら着替えろよ」
「変態、覗き魔」

ありがたさを理解するつもりは全くないらしい。
ことあるごとに呼ばれてはコキ使われた。
なんだかんだで忙しい休日だ。

今日は僕がソファで寝るのか。

「私の場所で勝手に寝ないで」
「うるさい由菜のバーカ」
「風邪は移さないから」


−翌週−
金曜日は気力で一日を乗り切った。
フラフラになりながら部屋に帰ってきた。
由菜は風邪も治り、すっかり元気になっていた。

うつさないって言ったくせに。

完璧に風邪をうつされてしまった。
熱を計ったら39度近かった。

「おじさんのくせに風邪をもらわないでよ」
「お前って酷いヤツだな」
「緊張感が足りないのよ、私のせいじゃないからね」

夏風邪は辛い。

「お粥作った」
「あーんして」
「バッカじゃないの」

思いっきりドン引きされた。
自分だって言ったじゃんかよ!

たまにオレだって甘えたいときもあるのだよ。

をいをい、6つも7つも離れたまだ子供に甘えてどうする。
自分で自分にツッコミを入れて情けなくなった。

「あーん」

『パクッ』

「美味しい?」
「うん」

メチャクチャ恥ずかしい。
いや、ホントはうれしいかな。

「25にもなって恥ずかしい」
「面目ない」

完全にへたれキャラ扱いになっている。
子供にバカにされている。

「オレって、いつからへたれ扱いなんだ」
「そんなの初めっからじゃん」
「……そっすか」
「そっすよ」

頭をナデナデされながら言われた。
屈辱的なナデナデ。
今の僕はどうみてもMだ。
由菜は典型的なS型人間だ。

そのうちMらして泣かしてやるからな。

『少女を18歳未満と知りながら、いかがわしい行為を…』

そうですね、完全にそうなって捕まります。はい。


◇◇


休日は寝込んで過ごした。
体の調子が戻ったのは水曜日だった。
水曜日の晩ご飯は親子丼を作ってくれた。

「水着が欲しい」

金曜日の夕方に渋谷で待ち合わせをした。
店を何軒も回って水着を選んだ。
それなのに、結局は最初に行った店で水着を買うことになった。

「いいんじゃない」
「真剣に考えていない」
「好きなのを選べよ」
「役立たず」

早くしてくれ、脱水症状になりそうだ。

「これとこれにする」

ニットボーダーのビキニと大人っぽい花柄のビキニを購入した。
コイツ、2着も買いやがったのか。

「キイちゃんは買わないの?」
「海行かんもん」
「水着買った意味ないじゃん」
「はあ? オレと行くの?」
「誰と行くのさ」
「友達行くだろう」
「電車に揺られて海水浴なんてイヤ」

なんでオレが海水浴に付き合わなきゃいけないのだ。
そういえば、海水浴なんてしばらく行ってないな。

結局、海パンを買ってしまった。

「超早起きして明日行こうね」
「江ノ島方面とかは勘弁だからな」

AM 7:12 ⇒
凄く早起きして高速を使って河津の海に来た。
僕は眠くて倒れそうだ。

青い海。
初めて来たけど、きれいな海だ。

「いい所だね」
「来たことあるのか?」
「ネットで調べた」
「なんか企んでいるよな」
「なんのこと?」

白々しくとぼけている。

「頼むから教えろよ」
「1泊するのだよ」

そっか、明日は日曜だもんな。
なるほど頭いいじゃん。

「ええっ〜1泊すんの?」
「運良く予約とれたのさ」
「……」
「何よ、水着2着買ったんだから仕方がないでしょ」

仕方がないって、全然意味分かんないですけど。
そんなに金持ってきていないぞ。
てか、金自体がないって。

「私のおごりだから」

場所を確保して準備を整えた。
よし、これでゆっくり眠られる。

「お待たせ」

由菜は大人っぽい花柄のビキニで登場した。
彼女が大人っぽく見えた。

「変態!」

速攻で変態にされた。

「似合うよ」
「ホントに?」
「ホントだ」

少しだけ恥ずかしそうな表情をした。
それに、けっこう谷間あるじゃん。

「目がエッチだ」

水着姿の由菜は、夏の太陽に照らされて輝いて見えた。
10代の体は健康的な色気を発していた。

若いって素晴らしい。

完全におじさん的感想になっている。
はしゃぐ由菜は素直な笑顔でとてもかわいい。
今は何を守りたいかと聞かれれば、僕は君の笑顔と答えるだろう。

いつも笑顔の由菜でいて欲しい。

「今日のお宿に行くよ」
「どこなんだ?」
「そこ」

なんとも高級なお宿だった。
こんな所に泊まって大丈夫なのか?
もの凄く不安になってきた。

「凄いよ、海丸見えって感じ」
「お前、オレの嫁になってたぞ」
「細かいことは言わないでよ」

全室オーシャンビューの部屋。
窓の向こうには夏の海と伊豆の島々が霞んで見える。
明日の朝は早起きして朝日を見てみるか。
きっと素晴らしいだろう。

「お風呂入ろ」

温泉って最高!
体のコリがほぐれていく。
溶けていって無くなってしまいそうだ。
会社に行きたくね〜よ〜
しばしの間、現実から逃避した。


「女の子より長風呂」
「気持ちよかったから」

部屋に戻ると豪華な料理が並んでいた。
伊勢エビがあるではないか!
アワビにサザエ、これは金目鯛……
凄いけど、ホントに大丈夫なのか? 由菜。

「美味しいね」
「美味い! 最高だよ」

こんな贅沢は二度とできないかもしれない。
お酒も旨いし、文句のつけどころがないよ。

「いつもありがとうね」

それは思ってもいなかった言葉だった。

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