Nazca Novels 女子高生の計画的同棲

第12話 うかつに触ると噛みつきます

新橋で乗り換え横浜に着いた。
駅から歩いて港湾事務所に向かった。

「梁水です。お世話になります」

何だかんだで午前中を打ち合わせで費やした。
昼ご飯を食べたら、午後は現地でまた打ち合わせだ。
近くのコンビニで弁当を買い、港を眺めながら食べた。

「さて、午後も頑張るか」

下請け業者の担当と合流し、現地での打ち合わせに入った。
場所の確認と明日の作業の打ち合わせをした。

「お疲れ様です。明日また現地で」
「準備で時間が掛かりますので、10時頃に来てください」
「分かりました。よろしくお願いします」

時計を見ると、4時になったばかりだった。
今日はもうすることがないな。
とりあえず、みなとみらいで時間を潰すか。
僕は由菜へのお土産の下見をした。
チーズケーキもいいな。

日が暮れてきたのでホテルに向かい、チェックインした。
山下公園の向こうには港が見える。
一人で泊まるには少しもったいない気がした。

「いってらっしゃいませ」

ホテルを出て、瑞穂と待ち合わせている店に向かった。
夜の中華街は雰囲気がいいな。

「梁水君」

瑞穂の声が聞こえてきた。

「丁度良いタイミングだね」
「うん、お店に入ろ」

店内は平日にもかかわらず賑わっていた。
観光客も多いのだろう。

「この店は安くて美味しいのよ」
「楽しみだよ」
「じゃあ乾杯!」

とりあえずはビールで乾杯だ。
お店で飲むビールはとても旨かった。

「後でもう一人来るからね」
「そうなんだ」
「女の子だから楽しみにしてね」

瑞穂と大学時代の話やお互いの仕事の話をして盛り上がった。
彼女は来年の春に結婚することを報告した。
お相手は同じ店の先輩だ。
将来は二人で店を持つのが夢だそうだ。

「横浜で一番美味しいケーキ屋さんにするから」
「大きく出たね」
「夢は大きい方がいいのよ」

瑞穂は夢があっていいな。
夢なんて言葉は、子供だけのものだと思っていた。
彼女の前向きなところは大学時代から変わっていない。
ずっと彼女を羨ましく思っていた。
僕は毎日を平凡に過ごしているだけ……

平凡じゃなかった。

うーん、今は平凡じゃないな。
夢うんぬんより、これから僕の生活はどうなるのだろう?
改めて今の生活を考えてしまう。

「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」
「あっ、来た来た」
「遅くなりました」

声の方を振り返った。
あっ。

「お久しぶりです。先輩」
「桐乃ちゃん?」

高校の後輩で佐々木桐乃さん。
どうして彼女と瑞穂が知り合いなの?

「彼女はお店の取引先に勤めているのよ」

彼女は瑞穂の店に材料などを卸す会社に勤めている。
瑞穂は彼女と仲良くなり、たまに飲んだりする。
たまたま会話の中に僕が出てきて、僕の高校の後輩だと知った。

「世の中って狭いよね」

ホント瑞穂の言うとおりだ。
それにしても桐乃ちゃん、キレイになったな。

「じゃあもう一度乾杯!」

僕たちは美味しい中華を食べながらお酒を楽しんだ。
久しぶりに羽を伸ばせたことが嬉しかった。
やっぱり女子高生のガキより大人の女性だよ。
落ち着いて話せるし、何よりバカ呼ばわりはされない。

「先輩はあの人とお付き合いしているのですか?」
「いや、別れたよ」

彼女は僕の元カノを知っている。
同じ高校だったから当然だ。

「私は結婚するって思っていました」
「何度か別れたり付き合ったりしたけど、アイツとは結婚は無理だね」
「そうなんですか」
「価値観が違いすぎるんだと思う」
「ごめんなさい。なんか暗い雰囲気にしちゃいました」
「気にしないでよ、終わった話だから。じゃんじゃん食べようよ」

久しぶりの中華は本当に美味しかった。
たまに出張は楽しいかも。

「桐乃ちゃんは私の家に泊まるから」
「うん、じゃあね」

僕はホテルまでのんびり歩いて帰った。
火照った顔に夜風が気持ちよかった。

−翌日−

午前中に現場作業の確認と写真を撮った。
会社の戻る前に由菜へのお土産を買っていこう。
昨日見たチーズケーキと小龍包でも買おう。
そういえば、事務の女の子からもお土産って言われてた。
それは適当に選んで買うとしよう。質より量だ。
会社に戻り、実施計画書の変更と写真を整理した。

「お疲れ様です」

定時に会社を出た。
今日の晩ご飯は何かな?
僕は大混雑の山手線で部屋に向かった。
今日は「飢え死にさせる気か」って言われなくて済むな。

駅を出て、コンビニで飲み物を買った。
やっぱビールは必要だよ。

「ピコピコ」

メールの受信音が鳴った。
僕は携帯を見てみた。
このメールは誰だろう?

『楽しかったです。近いうちにまた飲みましょうね』

桐乃ちゃん……どうしてアドレスを知っているの?
って、瑞穂が教えたな。

『メール待っているよ』

メールを返信した。

『タッタッタッタッ』

階段を上り部屋に向かった。
上りきったとき、視界に人影が入ってきた。
部屋のドアの向こうに女の子が小さく座っている。
女の子は僕の気配に気が付いた。

「ただいま」
「寒い」
「……部屋に入ろう」
「おんぶ」

僕は由菜をおんぶして3m先の部屋に戻った。
一応待っていてくれたんだろう。

「これ美味しい」

お土産の小龍包を夕食にした。

「メチャ美味しい」

お土産のチーズケーキをデザートにした。

今日の由菜は妙におとなしかった。
バカとか変態とか、まだ一度も言われていない。
いざ言われないと落ち着かないものである。

「ねえ、もう寝ようよ」
「まだ9時だよ」
「眠い」

言われたとおり、歯を磨いてベッドに入った。
由菜もすぐにベッドに入ってきた。

「やっぱベッドは二人で寝る所だよ」

そう言って由菜はすぐに眠ってしまった。
昨日の夜は寂しかったのかな?
僕は由菜の頬を手で触ってみた。

『ガブッ』

「あぎゃっ」

寝たフリしてやがった。

「エッチ」

そう言って噛みついた手にキスをしてくれた。
そして、恥ずかしそうな表情でクルッと背中を向けた。

をいをい、今のメッチャかわいかったぞ。
って、女子高生にときめいてどうすんのよオレ。
だけど、由菜ってマジでかわいいんだよなぁ。
なんか……困っちゃうな。

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