第2話 非情識―ヒジョウシキ
彼女はソファに膝を丸めて座った。
僕の顔を上目遣いに見ている。
「着替えあるの?」
「パジャマ持ってる」
「それでいいから着替えなよ」
「覗く気でしょ変態」
「パンツ見せられるのも困る」
彼女は慌てて正座にした。
「スケベおやぢ」
「帰れ」
「ウソだよ」
電車の中ではワザと見せたくせに。
なんで今のは赤い顔して恥ずかしがるんだよ。
やっぱ女子高生は別な生き物だな。
「冷えたからお風呂入りたい」
しかも図々しい生き物だ。
・・・・・・⇒
「さっぱりしたぁ」
彼女はパジャマ姿で現れた。
くそっ、かわいいじゃん。
「川波由菜です。お世話になります」
「梁水喜之助です。明日帰れ」
「絶対イヤ」
「家の人心配するだろうが」
「もう眠い」
「話を聞けよ」
「どこで寝ればいい?」
何を言っても無駄のようだ。
とりあえず今日のところは諦めよう。
「ベッドで寝ていいよ」
「キイちゃんは?」
「それはオレのことなのか?」
「うん」
「……オレはソファで寝るよ」
激しい脱力感に襲われた。
もういい、もういいから寝よう。
朝までの我慢だ。
「私がソファで寝るから、キイちゃんはベッドで寝て」
「いいからベッドで寝ろよ」
「うるさいな、私がソファなの!」
「分かったよ」
結局僕はいつも通りベッドで寝ることになった。
「キイちゃんおやすみ」
「……」
「キイちゃんおやすみ」
「おやすみ!」
・・・・・・⇒
こんなことってあるのか?
本当は夢の中じゃないのか?
夢だったら少しは常識のある女の子がよかったぞ。
思いっきりタメ口じゃん!
僕は冷蔵庫に行き、缶ビールをもう一本飲んだ。
ソファの上の彼女はスヤスヤと眠っていた。
よく平気な顔して眠れるなぁ。
どこの誰なのか知らない男の部屋なのに。
どうしてこんなにスヤスヤ眠れるのだろう。
かわいい寝顔して。
僕はリビングの電気を消した。
寝室に戻り、ベッドに潜り込んだ。
真っ暗な空間になった。
そして、意識が遠くなっていった。
うっ、柔らかい。
『少女を18歳未満と知りながら、いかがわしい行為を…』
そんなのシャレにならないぞ。
僕は体をずらして彼女から離れようとした。
一緒に柔らかい感触がついてきた。
「ソファで寝るんじゃないのか」
「気が変わった」
「分かったから少し離れろよ」
「イヤだ」
「なんか当たってるって」
「変態エロおやぢ」
「お前なぁ」
「泊めてくれてアリガト、だからサービスだよ」
何がサービスだよ。
ガキのくせに色気づきやがって。
まだまだボリュームが足りないって。
泊めてくれてアリガト……そんなかわいい声で言うなよ。
◇◇
いつもの癖で6時半に目が覚めた。
隣に女の子がスースーと寝息を立てていた。
やっぱ夢ではないんだな。
とりあえずシャワーを浴びてこよう。
『シャー』
熱めのシャワーで眠気を飛ばした。
そういえば洗濯しないといけないな。
脱いだTシャツとパンツを洗濯カゴに入れようとした。
ぐわっ。
女子高生の生パンツ……
洗濯カゴの中で存在感を見せつけていた。
これはよーく見てもいいということなのか?
「どこいったの?」
寝室から彼女の声がした。
彼女はベッドの上で眠そうに座っていた。
「起きたの?」
「もう少し寝よ」
「オレはもう起きたよ」
「いいから寝なさい」
いじけた顔をするのでベッドに戻った。
なんで命令口調なんだよ。
起きたら本気で家に帰らせないとヤバイぞ。
そう思いながら完璧に二度寝をしてしまった。
「もう起きなさい」
「う〜ん」
「いつまで寝てんのさ」
目が覚めたら12時を過ぎていた。
あれ?いい匂いがする。
「オムライス作ったから」
「マジで?」
「うん」
テーブルの上にはオムライスが並んでいた。
ケチャップがハート型になっていた。
「食べるときは、いただきますでしょ」
「……いただきます」
久しぶりに誰かの手作りを食べた気がした。
彼女の作ったオムライスは美味しかった。
「美味しい」
「ホント?」
「ホントだよ」
「晩ご飯も作ってあげるから」
「うん、えっ?」
晩ご飯って、ちょっと待てい!
何をサラッと言っている。
「晩飯はいらない」
「何で?」
「これを食べたら家に帰りなさい」
「イヤ!」
怒った顔をしてほっぺたを膨らませた。
かわいい顔をしたって無駄だよ。
「家はどこなの?」
「……釧路」
「釧路か。くしろ?」
釧路って北海道の東じゃないか。
釧路から東京まで家出してきたのか?
「東京まで家出してきたのか?」
「別に関係ないじゃん」
「あのな」
「親戚のお姉ちゃんの家に居候してる」
そっか、親戚のお姉さんの所にいるのか。
良かった家出じゃなくて。
「お姉さんとケンカしたんだ」
「違うよ」
「きちんと説明しなさい」
「お姉ちゃんのとこ、新しい彼氏が居ついているからイヤなの」
「確かに分からなくはない」
「お姉ちゃんだって私がいない方が本当はいいのよ」
彼女は寂しそうな顔で下を向いた。
そして、今にも泣きそうな顔になってきた。
「それに……」
「それに?」
「毎晩エッチな声が聞こえてくるもん」
「……」
「私もう耐えられないよ」
どうコメントしていいのか分からなくなってきた。
確かに毎晩じゃキツイなぁ。
思春期真っ最中のお年頃だもんな。
『リンリラリンリラ♪』
彼女の携帯が鳴った。
しばらく話し込んでいた。
「大丈夫、お母さんからも許しが出ているから」
お母さんの許し?
「荷物は冬服くらいだから大丈夫だよ」
荷物?
「キイちゃんって呼んでるの」
キイちゃん?
「うん、ラブラブだよ」
ラブラブ?
「じゃあね」
彼女は僕のそばに寄ってきた。
ゆっくりと床の上に正座をした。
深々と頭を下げた。
「もうここしかないから、ここに住むね」
にっこり笑って言った。
正座をして頭を下げたにもかかわらず、お願いでなく宣言かい!
女子高生に僕の常識は通用しない。
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