Nazca Novels 雪原に舞い散る赤い雪

第10話 ターニングポイント

僕はカラオケを熱唱した。
だんだんと込み上げてくる怒りを抑え込むように唄った。
負けじと大塚さんも熱唱した。
終わる頃には午前二時を過ぎていた。

「お疲れ様でした」
「金崎、遅れるなよ」
「はい」
「それと、大塚を頼むな」
「はい」

大塚さんはかなり酔っぱらっていた。
立っているのがやっとの状態だった。
抱え込むようにタクシーに乗り込んだ。

「三条三丁目までお願いします」
「はい」

タクシーの中で大塚さんは、僕の肩にもたれ掛かるように眠った。
シャンプーの香りが心地良かった。

「はい、お釣り」

タクシーから降りた。

「大塚さん、歩ける?」
「おんぶして」
「マジで?」
「マジで」

呼吸を荒くしながら大塚さんの部屋の前についた。
けっこう彼女が重かった。

『ガチャ』

「大丈夫ですか?」
「ベッドまでお姫様抱っこ」
「甘えてますね」
「甘えたいんだもん」

『ポスッ』

ベッドの上に大塚さんを降ろした。

「喉が渇いた」
「はいはい」

冷蔵庫からレモン水を取り出して渡した。
そしてベッドの上に腰を降ろした。

「あ〜生き返った」
「大塚さん飲み過ぎですよ」
「だって別れたんだもん」
「……ゴメン」
「謝らないでよ〜もう平気だもん」
「オレも別れるんです」
「えっ?ホントに?」
「ホントです」

大塚さんに別れる理由を説明した。
その頃には大塚さんも酔いが少し冷めてきたようだった。

「どうして簡単に裏切れるのかなぁ〜」
「どうしてなんでしょうね」
「絶対いい死に方させたくないな」
「それってなんか怖いですよ」

僕は左腕の時計を見た。
時刻は三時半を回っていた。
大塚さんは立ち上がって僕の横を通り過ぎた。


『カチャッ』

「金崎君、帰っちゃおうとしたでしょ」
「いえ」
「帰っちゃたら……イヤだな」
「……」
「抱きしめられて眠りたいな」

甘えた表情の大塚さん……可愛かった。
いつもはお姉さんなのに、今は年下に見える。
憧れていた彼女が僕の唇を求めてきた。
白い体、甘い声、感じたことなかった温かい感触。
彼女に導かれ僕は彼女に浸透していった。
そして、気が付けば夜が明けていた。
裸の僕らは昼近くまで眠った。


◇◇


「金崎君、起きてよ」

目を開けると大塚さんが横にいた。
彼女は僕にキスをしてくれた。

夢ではなかった。

「あの、オレ」
「何も言わなくていいよ」
「はい」
「一生懸命の金崎君……かわいかったよ」

必死だったから覚えていない。
急に恥ずかしくなってきた。
だけど、嬉しい。

「大塚さん」
「あ…金崎君、もう……」


◇◇


「遅刻しちゃうよ」
「じゃぁ後で」
「家に寄って着替えてよ」
「マジで?」
「だって同じ服だったら怪しまれちゃうよ」
「ちゃんと着替えますって」

僕は走って家に向かった。
何でだろう?不思議と足が軽い。
それと、景色が明るく見える。
大塚さん……彼女のおかげだ。
今日もバイト頑張るぞ!

「先輩」

振り返ると純夏ちゃんがいた。

「おはよ」
「もうお昼過ぎですよ」
「あははは、そうだね」
「あ〜デートですか?」
「違うよ、何で?」
「だって嬉しそうですもん」

嬉しそうに見えるか?
まっ、当たっているからいいか。
なんかメチャクチャ嬉しいよ実際。

「別れるんだ」
「えっ?ホントですか?」
「近いうちにね」
「……はぁ?」
「これからバイトだから、またね」
「いってらっしゃい」

今の僕は、さっきまでの出来事のことで頭の中がいっぱいだった。
今までとは違った価値観が芽生えてきそうな感じがする。

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