Nazca Novels 雪原に舞い散る赤い雪

第11話 ココロノナカ コワレルナニカ

今朝は早く目が覚めた。
一週間が始まる。
少しだけ大人になった僕。
新しい気持ちで行こう。
そして志緒理にサヨナラをしよう。
僕はいつもより20分も早く家を出て地下鉄に乗り込んだ。

動き出す地下鉄……走音と雑音が入り混ざる空間。

混み合う地下鉄の中で大塚さんのことを考えていた。
あれはたまたまの出来事。
憧れの人と一夜を一緒に過ごせた。
大塚さんが僕と真剣に向き合ってくれるなんて思っていない。
だからあの夜のことは僕にとって十分すぎる幸せだ。

「なんか空気の入っていない顔してるわね」

いつの間にか遠山が横にいた。

「珍しく早いね」
「お前はこの時間なのか?」
「そうだよ〜こう見えても皆勤賞なんだから」

遠山がサボっているところは見たことがない。
一日一回は顔を見かける。
真面目に学校に来て、終われば思いっきり遊ぶ。
遠山は理想的な学生生活をしている人なのかもしれない。

「オレ、別れるから」
「理由は?」
「遠山の思っているとおりだったよ」
「あんなこと遠回しに言わない方が良かった?」
「いや、それに真弥からも言われていたからね……まっ、お陰でショックもなかったよ」
「アンタならソコソコの顔をしてるから、ソコソコかわいい彼女ができるよ」
「ソコソコって二回も言ったな」
「へへっ」

憎らしい笑顔がかわいかった。
彼女のモテる理由が少しだけ分かったような気がした。


◇◇


20分も早く家を出たので余裕で学校に着いた。
走らなくて済むのはとても良いことだ。
教室に鞄を置き、僕は志緒理のいるクラスに向かった。

さっさと別れよう。

「志緒理はまだ来てないよ」
「……そっか」
「この時間にいないから今日はどうかなぁ」

休みか…休みの場合はメールで済ますか。
もう早くスッキリしたいな。
チャイムが鳴ったので教室に戻った。

当たり前に始まる授業。
1時間目,2時間目,3時間目,4時間目……

「男がすぐ手の届くトコにいないと、ダメなタイプなんだよ」

真弥が言った。

「オレはその中の一人か」
「たぶんな」
「今からこれだと将来は素晴らしい悪女になるな」
「彼女は家庭環境にも問題があるんだろうな」

家庭環境に問題がある。よく聞く話だ。
問題行動を起こす人間には少なからず影響している。
だけど、こっちにしてみれば迷惑なことだ。

「おい英太、後ろのドア」
「ん?」

振り返るとドアの横に志緒理が立っていた。
僕は立ち上がり、志緒理の所に行った。

「あの、英太」
「あっちに行こう」
「うん」

どうせあの日の言い訳でもしに来たのだろう。
そんな悲しそうな顔をしても無駄だよ。
言い訳は聞かない。
サヨナラだ。

一階の裏玄関の所へ無言のまま二人は歩いた。

「英太、ごめんなさい」

やっぱりそうきたか。

「いいよ、もう謝らなくて」
「私…あの」
「いいって」

無駄な時間を志緒理に費やした。
もうこうして二人っきりで話をすることもないだろう。


「英太……別れて」

えっ?
別れる?
言い訳をするんじゃなかったのか?

僕は自分の描いていた別れのイメージを崩された。

冗談じゃない!
これじゃオレが振られるみたいじゃん。
好きでもないのに付き合ってやったのに……
好きになろうと思ったのに…
なんで……

心の中の何かが壊れた。

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