Nazca Novels 雪原に舞い散る赤い雪

第13話 渡したい愛

あれから2週間が経った。
気がつけば夏になっていた。
朝から日差しが熱い。

「おはようございます」

あれから僕は努めて志緒理に優しくした。
制服を着ている時間帯は仲の良いカップルでいた。
先週の金曜日の帰りには拒み続けたキスもした。
残念だけど、そろそろしておかないと怪しまれるから…

大塚さんとのキス……
志緒理にかき消されてしまった。

「おはようございます!」

「うわっ」

心臓が止まるかと思うほどビックリした。
周りの人達も驚いた顔で僕らの方を見ていた。

「死ぬかと思ったよ」
「ご…ごめんなさい」

真っ赤な顔をした純夏ちゃんが後ろにいた。

「おはよ」
「先輩のウソつき」
「ウソつき?」
「だって後ろ一度も向いてくれなかったです」
「あっ、ゴメン」

いじけた顔で僕を見ていた。

「最近見かけなかったから」
「朝練が続いていたんです」
「今日は朝練なかったの?」
「はい、辞めましたから」
「マジで?」
「いろいろありまして」

今度は寂しそうな顔をして下を向いた。
僕はその理由を聞かなかった。

「明日からは忘れずに振り返るよ」
「はい」

月曜の朝は一番混み合う。
地下鉄の中もやっぱり混んでいた。

「英太、オレにも紹介してよ」

いつの間にか背後に真弥がいた。

「かわいいね名前は?」
「あの、小仲です」
「オレは青柳真弥、英太とは相思相愛の仲で意外と爽やかな男の子です」
「ややこしいことを言うな!」

クスクスと彼女が笑った。

「つかみはOK!」
「相手にしなくていいからね」
「はい」
「相手にしてください」
「朝からウザッ」

仕方がないので彼女について真弥に話した。
いきなりスーッと入ってこられる真弥が羨ましく思えた。

「土曜の夜おったぞ」
「そうか」

もうそろそろだと思っていた。
予想通りの展開だ。
ひそひそ話を不思議そうに彼女が見ていた。

「あっ! 向こうにアユちゃんがいる〜」
「アユ? 誰だ?」

真弥は混み合う中を縫うように歩き出した。
そして人混みに消えていった。

「ゴメンねいきなり」
「いえ、大丈夫です」

笑いながら彼女は答えた。
そして真顔になって聞いてきた。

「彼女と別れたんですか?」
「えっ? あ…まだ付き合っているよ」
「……そうですか」

うつむき気味に彼女が言った。

「近いうちに別れると思うけどね」
「えっ?」
「ちょっとね、今は別れるわけにはいかないんだ」
「好きだからですよね」
「いや、好きじゃない」

別に彼女にこんな話しをする必要はない。
話してしまったことを後悔した。

「好きでもないのに……そんなの変です!」

彼女が声を大きくして言った。
周りの音が一瞬だけかき消された感じがした。

「ごめんなさい」
「……いや」

彼女の言うとおりだ。
好きでもないのに付き合うのはおかしい。
くだらないって言われればそれまでだけど、別れるわけにはいかない。
簡単にウソをつき、それを悪いと思わない。
自分主義の身勝手さがどれだけ人を傷つけるということ。
それを志緒理には分からせないといけない。

だから今は別れられない。

志緒理には僕を裏切った罰を与えないといけないと思っていた。
2週間が経って考えが変わった。
僕が志緒理にしようとしていること……これは罰ではない。

信頼を失うとき…そこには憎しみが生まれる

僕と付き合い、そして別れたときに、そのことに痛さを持って理解する。
信頼を失った原因が自分だったということを。
心の痛さを知ること。
そうしないと志緒理が何も変わらない。
これは志緒理のためなんだよ。
僕は志緒理のためにしていることなんだよ。

これは僕が志緒理にしてあげる、せめてもの愛なんだ。
だから必ず渡してあげるよ。

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