Nazca Novels 雪原に舞い散る赤い雪

第15話 在り来り

「ゴメン英太」
「ん?」
「補習で一緒に帰れないの」
「ガンバって」
「なんか冷たいな」
「自業自得だ」

サボったツケが早くも回ってきている。
よくも3年に進級できたものだ。

「じゃあね」

重い足どりで志緒理は教室に戻っていった。

「南の彼氏って金崎?」

声の主は科学の田沢先生だった。

「まあ一応」
「最近は休まず来ている。君のお陰かな」
「卒業できますかね」
「副担として努力はするよ」

そう言って僕の肩を軽く叩いた。
ユーモアセンスのある人気の先生だ。
久しぶりに一人で下校した。


「彼女は?」

遠山だった。

「補習だって」
「卒業できるのかね〜」
「さあな」
「連中はみんな年上だってさ」
「真弥から聞いた?」
「うん。あのね金崎君、潰れたホテル知ってる?」
「川の向こうのか?」
「そのホテルの向かいにマンションがあって、そこに集まっているみたいなの」
「そこでヤバッちいことをしているってワケか」

バカな芸能人がしていたことと同じか。
仲間に金持ちのボンボンでもいるんだろうな。
だけど、そいつらのことなんてどうでもいい。
そんなヤツらと付き合う志緒理が悪い。
そんなヤツらと付き合っているのに、僕と付き合ってくれと言った志緒理が悪い。
僕を騙している志緒理が全部悪い。

「今日もバイト?」
「まあね」
「あの女子大生、かわいいもんね」
「なんだよそれ」
「べーつに」

遠山に僕の行動まで読まれている気がした。
彼女とはいろいろな面で仲良くしていたいと思った。


◇◇


「志緒理ちゃん、今からこんなんじゃ卒業なんてできないよ」
「ごめんなさい」
「落第生なんて出したらさ、こっちも恥ずかしいからね」
「先生……」
「オレの言うことを守りなさい」
「……はい」
「彼氏なんて作っている場合じゃないよ」
「あ…はい。あっ」
「君は勉強に集中しなさい」


◇◇


「よくあるパターンね。気持ちをハイにさせるのが第一段階、第二段階がH感度を刺激しちゃうって感じかな〜」
「依存症になるようなもんだ」
「そんな感じね」

ワイドショーでよく見るような話が近場で起こっている……
なんか話がリアルすぎて気持ち悪い。

「基本的には合法も非合法も同じだと思うよ」
「そんなのに頼りたくなるのかね〜」
「かなりヤバくなっちゃうみたいだよ」
「使ったことあるの?」

『ゴン!』

「あたっ」
「私はまともな人間ですから」
「ごめんなさい」
「結局は男の欲求から始まるのよ」

彼女は悲しそうな表情を見せた。
確かに言うとおりだと思う。

「まだあの子がやっているって決まったワケじゃないよ」
「だといいけどね」
「まだ愛情はあるの?」
「もうないけど、そんなのと付き合っていたなんて、やっぱヤダからね」
「そうだよね」

志緒理を助けてあげたい。
僕と別れることによって志緒理を現実の世界に引き戻すことが出来れば、志緒理と付き合っていたことは有意義なことになると思う。

「金崎君、やっぱ普通の恋が一番だよ」
「そう思うよ」

遠山の言うとおりだよ。
僕は普通の人と普通の恋愛をしたいだけだ。
ドラマのような恋愛なんてしなくていい。
信頼できる人と恋がしたいだけ。

在り来りの恋で十分。
僕は在り来りの人間だから。

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