Nazca Novels 雪原に舞い散る赤い雪

第17話 熱演

作戦はこうだ。
初めに綾音が部屋の中に入り込む。
綾音は友達が来ていると連中に言い、僕を中に入れる。
僕は強引に志緒理のいる部屋に入り込む。
そして、引導を渡す。
その後に綾音の兄さん達が警察と偽って入り込んでくる。
この作業を短時間で終わらせなければいけない。
ヤツらに考える時間を与えないためだ。

予想では志緒理は一番奥の部屋にいるはずだ。
いかがわしいことをするのは奥の部屋だと相場は決まっている。
情けない彼女の姿は正直言って見たくない。
だけど、今の僕は妙にテンションが高くなっている。
絶対にこの作戦を成功させてやる。

「じゃあ先に行くね」
「頼むな」
「任せて」

綾音がロックを解除してドアを開けて中に入っていった。
僕は綾音の兄さんの携帯にワン切りコールを入れた。

作戦開始だ。


◇◇


「ゴメン遅くなっちゃった」
「マジで持ってきたの?」
「うん、あぶろうよ」

まずは潜入成功ね。
リビングは20畳くらいか。
和風の部屋が繋がっていて、何か変な声が聞こえてくるのが奥の部屋ね。
これは予想通りだわ。

「そうそう、友達が来てるよ」

『ガチャ』

「アンタ誰?」
「志緒理いるよな」
「アンタ彼氏か?」
「迷惑はかけない2,3分で終わる」
「ちょっ、ちょっとアンタ」

「ねえ、私を放置しないでよ」
「ええっ、でも……」
「エッチしてあげないよ」

うん、第2段階も大成功。
金崎君、ガンバレよ。


◇◇


『ガチャ』

部屋のドアを開けた途端、妙な匂いがしてきた。
ドアの向こうには乱れた男女6人の姿があった。
まだこれから盛り上がるってところだろう。

「お前、誰だよ」
「お楽しみ中悪いけど、すぐ終わるから勘弁な」

裸の野郎達は面を喰らった感じで固まっていた。
女の子達は今イチ状況を飲みこめていない感じだった。
ただ一人の子を除いては。

「え…英太」

さっきまでのトロンとした表情から血の気が引いていった。
急に現実の世界に引きずり込まれ、行き場を失っていた。

「英太違うの」
「志緒理、半裸で何を言っても無駄だ」

ノーブラにブラウスを羽織っているだけ。
スカートは穿いているけど下着は着けていない。
そのくせに靴下は履いている。
安っぽいエロおやじの発想と変わらないバカな野郎達。
こんな女と仮にでも付き合っていたと思ったら悲しくなってきた。

「待って英太」
「志緒理ちゃん、バイバイ」

僕は優しく彼女に微笑んであげた。
これで彼女も裏切りの罪の重さを理解しただろう。

「ゴメンね、用は済んだから楽しんでね」

唖然とする他の連中を尻目に僕は部屋を出た。
僕の姿を見たと同時に綾音は自分の携帯を触った。
兄さんに空メールを送ったのだろう。

「おい、ちょっと待てよ」

一人の男が部屋から出てきた。

『ガシャ』

玄関からドアを開ける大きい音がした。
音と同時にスーツ姿の3人の男が部屋に入ってきた。
予定通り、最後の締めの段階だ。

「警察だ」

僕を追いかけてきた男の足が止まった。
リビングにいた男も同時に固まった。

「井伊凪莉真だな」

綾音の兄さんは思いっきり偽名を言った。

「は…はい」
「覚醒剤取締法違反で連行する」
「私……知りません」
「それはゆっくり署で聞くから」

まるでテレビドラマのシーンを見ているようだった。
この兄妹……けっこう練習したな。
ノリノリでやっている。

「君たちも仲間か?」
「いいえ、僕らは違います」

ヤツらは青い顔をしながら全力で否定した。
だいたい、この状況ならここにいる全員が容疑をかけられるって。
あまりの熱演で本気で警察だと思って疑っていない。

「この人も仲間です」

綾音は僕を指さして言った。

「僕は違います」
「いいから来なさい」
「僕は用事があって来ただけです」
「そんなウソが警察に通用すると思うか」
「本当ですって」
「分かった、分かったから行くよ」

僕もかなり熱演した。
綾音の兄さんの友人二人に、両脇を抱えられて部屋を出た。

作戦はまんまと成功した。
僕はやり遂げた満足感で満たされた。

マンションから出てくると、ミニバンが止まっていた。
車の中には真弥と遠山が乗っていた。

「うまくいった?」
「バッチリだよね、金崎君」
「大成功だよ」
「じゃあ英太のおごりでファミレスだね」

これだけの仕事をしてもらって飯代だけなら安い報酬だ。

「好きな物をたくさん食べていいよ」

これで志緒理とは関係なくなった。
自由になれた。
後は残りの高校生活を満喫するだけだ。

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