Nazca Novels 雪原に舞い散る赤い雪

第19話 雨の夜

土曜日は合コン。その日になってしまった。
真弥が前にバイトしていた洋食屋さんに集合することになっていた。
今日は個室を確保しているそうだ。
真弥はこういったイベントに慣れている。
女の子達をリラックスさせ、自然にリードする。
緊張の空気は最初の3分だけで、後は和気あいあいのいい感じになったらしい。
僕はというと、バイトが長引いて遅れることになった。

「ゴメン、遅れました」
「遅い〜」

女の子達が一斉に声を揃えて言った。
見事なチームワークに圧倒された。

「……えーっと、ごめんなさい」

妙な間を作ってしまいみんなに笑われた。
とりあえずは良かった。

僕はその隙に女の子達の顔をサーチした。
女の子達にハズレはいない。
これは凄いことではないか!
葵も有希那もかわいい部類に入る方だ。
僕を含めた野郎達は……たぶん大丈夫でしょ。
せっかくだから盛り上がりたいな。
だって、今の僕には邪魔になるファクターが何もないからね。

「最近彼女と別れた金崎君です」

真弥が余計な前フリを入れてきた。
そんなこと言わんくていいって。

「金崎英太どす〜おおきに」

僕は舞妓さんのように三つ指を突いた。
とりあえずみんな笑ってくれた。

真弥は見事なまでに場の雰囲気を察知し、みんなを盛り上げてくれた。
アイツはこういったイベントでは天才的な能力を発揮する。
自然と気の合うカップルが出来てきた。
葵もかなりいい雰囲気で会話を楽しんでいた。
だけど、アイツ猫かぶっているな。
真弥もいい感じだ。
でも、アイツはその場を楽しんでいるのだろうな。
いやいや、意外とその子と仲良くなって付き合っちゃったりするかも。

「次はカラオケね」

定番のカラオケに行った。
真弥が景品を用意していた。
それぞれのカップルがチームになって点数を競った。

僕は遅刻が響いていた。
知らない女の子に接近するきっかけを失っていた。
僕は同じく遅刻してきた有希那とチームになった。
有希那は僕が来る少し前に来たそうだ。

「有希那、遅刻は不利だな」
「私は英太で良かったよ」
「はいはい」
「ホントだよ」

そう言って有希那は僕の飲んでいるコーラを飲んだ。

「美味しい」

盛り上がった僕たちは次にボウリングに行った。
左右のレーンでチームになって対戦した。
僕が投げるときに真弥にカンチョーされた。

「ぢになっちゃう〜」

ありがちなパターンで笑いをとった。
うん、こうやって遊んでいる方が気楽で楽しい。
意外と合コンもいいかも。

終わったのは11時近くだった。

「英太、オレは送って帰るから」

真弥はそう言って女の子と行ってしまった。

「私も送ってもらうんだ」

一番いい雰囲気になった葵も地下街の方に消えていった。

「英太はどうするの?」
「送ってやるよ」
「私はお腹空いちゃった」
「そういえば腹減ったな」
「なんか食べよ」

僕と有希那はパスタを食べた。
僕はアサリのボンゴレロッソで、有希那はクリームソースのパスタを食べた。

「あれ?外雨降ってない?」
「ホントだ」

窓の外は雨がザーザーと降っていた。
車のライトがぼやけて光っていた。

「美味しかったね」
「うん、とりあえず地下鉄までダッシュだな」
「もう終電行っちゃったよ」
「ウソ」

時計を見たら12時半を回っていた。
タクシーで帰るしかないな。
二人はタクシー乗り場まで歩いた。

大行列だった。

こんな所で待っていたらずぶ濡れになってしまう。
どうしたものか。
風邪なんかひかせたら、後で有希那に何を言われるか分からん。

「あっちに歩こう」
「うん」

トボトボと歩き出した。
途中のコンビニでビニール傘を買った。
歩いていれば空車が見つかると思っていた。
しかし、その考えが甘かった。

「寒くない?」
「濡れちゃったよ」

二人は繁華街の外れのビルで雨宿りをした。
夏の雨は勢いを増していった。

あ、いた。

交差点の向こうに空車のタクシーが止まっていた。

「有希那、あれに乗ろう」

誰かにインターセプトされるわけにはいかなかった。
僕は有希那の手を引いて歩き出そうとした。

「ヤダ」

有希那は歩き出そうとしなかった。

「ヤダって、なんでだよ」
「もう歩けない」

空車のタクシーは二人の前を通り過ぎていった。
さすがにカチンときた。

「お前は子供か!」
「……」

有希那はむくれていた。
雨の中を歩かせたの悪いと思っている。
だけど、しょうがないじゃん。
あ〜合コンに遅刻しなきゃこんなことにならなかったのに。
店長のヤツ、恨んでやる。

「有希那、怒るなよ」

コイツ、何考えているのか分からん。
葵と違ってもっと大人だと思っていたのに。
なんで怒るかな〜
怒っている顔……ちょっとかわいいけど。
って、何を考えているのだオレ。

有希那が何も言わずに一人で歩き出した。

「はぁ〜なんなんだよ〜」

僕はすぐには歩かなかった。
しばらく有希那を目で追っていた。
有希那は一本向こうの交差点を左に曲がって見えなくなった。

「あぁ〜もう」

僕は慌てて走って追った。
もうずぶ濡れだった。

交差点を曲がったところに有希那は立っていた。

「英太、来てくれたんだね」
「当たり前だ」
「うれしい」
「どうしたのよ」

雨の勢いは止まらなかった。
繁華街の明かりが、低い雲に当たって空が明るく感じる。

「ねえ、ここに入ろうよ」

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