Nazca Novels 雪原に舞い散る赤い雪

第23話 私を知ってほしい

やっとの思いで国道に出ることができた。
日はすっかり暮れてしまい、暗くなっていた。

「雨は止みましたね」

さっきまでの強い雨は止み、西の空がわずかにオレンジ色に染まっていた。
もう少し暗くなったら星も見えてきそうだ。

「あそこのファミレスに寄ろうか」
「賛成です」

車を駐車場に入れ、ファミレスに入った。
二人とも水着のままでいることに、少しだけ違和感を覚えた。
かといって、今さら着替えるのも面倒くさい。
僕も彼女もチーズの乗ったハンバーグを注文した。
それと、大きめのサイズの野菜サラダも一つだけ注文した。

「ここは私が奢ります」
「いいよ」
「ダメです」

先に出てきたサラダを二人仲良く食べた。

「なんか恥ずかしいですね」
「そうかな」
「だって恋人同士みたいじゃないですか」

話の途中でハンバーグがテーブルに届いた。
彼女は何か言いたそうな顔でウェイトレスさんの顔を見た。

「どうかしたの?」
「タイミングが悪いです」
「なんの?」
「……なんでもないです」

少しふて腐れた顔でハンバーグをパクッと口にした。

『ピリリリリーピリリリリー』

僕の携帯が鳴った。
着信番号は090……全然知らない番号だった。

「誰からですか?」
「誰だろう? 全然知らない番号なんだよね」
「間違い電話かもしれませんね」

そう話しているうちに、着信が止まった。
大事な用事ならまた電話が来るだろう。
誰だかは知らないけど、次は出てみよう。

二人で葵や有希那の話で盛り上がった。
彼女は二人の先輩はとても優しくていい人だと言った。
逆に僕はあの二人を身勝手なヤツらだと酷評した。
ただ、有希那に関しては少し複雑な気持ちになってしまった。
あの日のことを思い出したからだ。

「じゃあ純夏ちゃん、ご馳走様です」
「美味しかったですね」

店の時計を見ると9時近かった。
ヤバイ長居しすぎた、急いで帰らなきゃ。
ここからだとまだ1時間半はかかる。
あまり遅いと心配されてしまう。
二人は店を出た。空はきれいな星空になっていた。

左に夜の海を見ながら車を走らせた。
はるか遠くに中心部の明かりが見える。
シートに擦れる日焼けした左肩が痛かった。

『ピリリリリーピリリリリー』

再び携帯が鳴った。
さっきかかってきた知らない番号だった。

「もしもし」
「あの金崎君?」
「はい、そうですけど」

電話の声は女の人だった。

「相良です。志緒理の友達の」
「どうしたの?」
「志緒理を知らない? 最近家に帰っていないらしいの」

志緒理のヤツ、また悪い病気が始まったのか。
だけど、僕にはもう関係ないよ。
志緒理が何をしようと、どうなろうと知ったことじゃない。

「勉強しに行くからしばらく帰ってこないって出ていって、それっきりなの」
「勉強するならいいんじゃない」
「お母さんが凄く心配しているのよ」
「悪いけど、オレは志緒理とは別れたから何も知らないよ」
「そうだよね。なんかゴメンね変なこと聞いちゃって」
「ううん、別にいいよ」

そういえば志緒理のヤツ、休み前のテストで30位に入っていた。
母親が知らないってことは塾とかゼミとかじゃないよな。
いったいどこで勉強習っているんだ?

「元カノさん、どうかしたんですか?」
「なんか家に帰っていないらしいよ」
「先輩に聞くのって変です」
「ひょっとしたらって思ったんじゃない」
「でも……」

彼女は不機嫌そうな顔をした。
別に純夏ちゃんが怒らなくてもいいと思うけどな。

「先輩、コンビニに寄ってもらっていいですか」

国道沿いのコンビニに車を入れた。
彼女はジュースを2本買って戻ってきた。
そして、僕に1本くれた。

「喉が渇きました」
「ありがとう」

貰ったジュースを飲んだ。
車の時計が10時40分と表示していた。
ヤバイな、11時までには帰さないといけない。
エンジンをかけ、車を走らせた。

『ピリリリリーピリリリリー』

また携帯が鳴った。
今度は有希那からだった。

「なした」
「いきなり面倒くさそうだね。ねえ明日空いてる?」
「明日か……あっ」

話の途中で純夏ちゃんに携帯を取られた。

「こんばんは純夏です」
「えっ? 純夏がどうして一緒なの?」
「一緒に海に行っていました」
「マジで?」
「先輩は明日も私と一緒です。だからダメです」

彼女は電話を勝手に切った。
しかも明日も一緒だと言った。
なんかさっきから様子がおかしくないか?
僕はチラッと彼女を見た。
不機嫌そうというより、思いつめたような表情だった。

「先輩、左に曲がってください」
「左に?」
「お願いします」

言われたとおり、左に曲がった。
もう少しで家に着くのにどこに行きたいの?
声をかけたかったけれど、彼女はそんな雰囲気じゃなかった。

線路に架かる陸橋を越え、車は高速道のジャンクション方面に向かった。
高速道路にでも入らせる気なのかな。

「あのさ、どこに行くの?」
「……」

彼女は黙ったまま何も答えてはくれなかった。
会話のない状態がしばらく続いた。
車は高速道の手前で赤信号に捕まった。
ギアをニュートラルに入れた。

あ……

彼女の右手が僕の左手を包んだ。

「今日は帰らないです」
「純夏ちゃん?」
「左に曲がってください」

交差点の左先には5階建てのホテルがライトアップされていた。

「有希那先輩と何かありましたよね」
「……」

僕と有希那にあったこと……
彼女は知っていた。
僕は何も答えられなかった。
別に彼女に嘘は言ってはいない。
でも、合コンなんて行きたくないと言っておきながら楽しんだ。
そして……有希那とあんなことをしてしまった。

僕は彼女を裏切ってしまったような気持ちになってきた。

「もっと私を知ってください」

車を地下のパーキングに止めた。

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