Nazca Novels 雪原に舞い散る赤い雪

第25話 久しぶりの声

朝早くから慣れない車の運転をした。
夕方まで海で遊んだ。
再び慣れない車の運転をした。

そして彼女と……

いろいろあってもの凄く疲れた。
彼女も疲れたのだろう。
キスの後、思いきり二度寝をしてしまった。
二人が目覚めたときは、10時近かった。

「ヤバッ、チェックアウトしなきゃ」
「……イヤです」
「えっ? なんで」
「帰りたくないもん」

そう言って彼女が抱きついてきた。
僕はあっけなく「まっいいか」って感じになった。
裸の彼女……その感触があまりにも気持ちよかったから。
もう一回戦だ! ってワケにはいかないな。
だって彼女は昨夜が初めてだったから。

「体は大丈夫?」
「平気です」
「そっか」
「シャワー浴びてきますね」

彼女はバスルームに入っていった。
少しして、バスルームから彼女の鼻歌が微かに聞こえてきた。
入れ替わるように僕もシャワーを浴びた。

「サッパリしたぁ。あれ?」

彼女は着替えずにベッドの中にいた。
もの欲しそうな顔で僕を見ている。
今までの彼女からは想像できなかった表情。
今までは、いつもどこか困ったような感じのイメージだった。
その表情に僕は少し戸惑ってしまった。

「えっと、着替えないの?」
「もったいないじゃないですか〜夕方までいられるんですよ」
「夕方までいるの?」
「はい♪」

とびきりの笑顔で彼女は答えた。
くそーかわいいぞ!
うん。年下最高じゃん。
年上好きから年下好きになっちゃうかも……
そう心の中でニヤけながら、彼女の隣に潜り込んだ。

少しの間、イチャイチャしながら会話を交わした。
会話はいつしか止まり、彼女の甘い声だけになった。
ありがちな定番パターンだ。

「せんぱいエッチです」

その後の言葉は言葉になっていなかった。

大塚さんの時は大塚さんが主導権。
純夏ちゃんの場合は僕が主導権。
ヤバイ、このペースって癖になっちゃいそうだ。

◇◇


「……ちょっとタイムください」
「ダメ」
「意地悪です」

今度は僕もしてほしいけど……我慢しよう。
物事には順番が大事だからね。
今度の日までとっておこう。
って、次はホントにあるのか?

お腹が空いたのでテーブルの上にあるメニューを開いた。
注文すると部屋まで運んでくれるそうだ。
僕はミックスフライ、彼女はパスタを注文した。
けっこう美味しかった。

「そろそろ出ようか」
「悲しいけど我慢します」

ホテルを出る頃には日が傾いていた。
久しぶりに太陽を見たような気がした。
日差しに軽い目眩を覚えた。

『ピリリリリーピリリリリー』

僕の携帯が鳴った。
この番号って昨日の……

「もしもし」
「何度もごめんなさい」
「いいよ、気にしないで」
「ありがとう。あのね、金崎君にお願いがあるの」

ひょっとして愛の告白?
相良さんも僕のことが好きなのか?
ひょっとしてオレってモテ期なのか?
人生に一度か二度しかないモテ期なのか?
頭の中でクエスチョンマークが並んだ。

「何だろう?」
「お願い金崎君、志緒理に電話して」

期待は全くの的はずれだった。
何で今さら志緒理に電話しなきゃならないのだよ。
もうアイツとは関係ないのに。

「金崎君だったら繋がるかもしれないって思ったの」
「……」
「ごめんなさい。だけど私、心配で……」

いい友達じゃん。
何をやっているんだよ、志緒理。
また変なことをしているんじゃないのか?
どうでもいいけど勘弁してくれよ。

「電話してみるよ」
「ありがとう。本当にありがとう」
「相良さんに連絡するように伝えるよ」

志緒理……お前、今どこにいる?

「元カノさん、心配ですか?」
「心配はしていないけど、友達があんなに必死に探しているからね」
「優しいですね」
「優しかったら別れていないよ」
「……恋愛って難しいですね」
「そうだね」

空がきれいなオレンジ色になっていた。
窓に入ってくる空気が冷たくなってきた。
僕は車をマンションの駐車場に入れた。
久しぶりに帰ってきたような感じがした。

「また遊んでください」
「うん」
「絶対ですよ」
「約束するよ」

車の中でキスをした。

先に車を降りた彼女は一礼して、小走りで僕の視界から消えていった。
ホッとした気持ちと、少しの寂しさが交錯した。


◇◇


部屋に入ってすぐに眠ってしまった。
晩ご飯を食べ損なった。
時計は12時になろうとしていた。
明日からバイトの毎日だと思うと気が重くなってきた。

あ…志緒理に電話入れるのを忘れてた。
う〜ん、どうしよう。
なんか緊張するし。
2択にかなりの時間を費やした。

『プルルル〜プルルル〜』

やっぱ出ないか……
今さら僕が電話するのも変だよな。
あんな別れ方をしたんだし。
出るワケないよ。

「……英太?」

久しぶりに聞いた志緒理の声が小さく聞こえた。

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