Nazca Novels 雪原に舞い散る赤い雪

第28話 西風の香り

3人の目の前には大きな鉄板。
ため息が出るほど暑い。
当然ながら鉄板も熱い。

「真弥、なんでお好み焼きなんだ?」
「なんとなく勢いで」
「暑いときにはお好み焼きですよ」
「そんなの聞いたことないよ」
「あ…辛いのだ」
「純夏ちゃん、普通はそっちだよ」

仲良く冗談を言いながらお好み焼きを食べた。
暑さを冷たいコーラで誤魔化した。

「英太、純夏ちゃんはどんな水着だった?」

コイツ、あの時の話を忘れていなかったか。

「えーっとね、凄かったぞ」
「マジマジ? ジーマ?」
「逆になったぞ」
「紐パン? Tバック? ホタテ貝?」
「3つめだったら捕まるわ」
「正解はあるのか?」
「本人に直接聞けよ」

真弥は乗り出してきた体を元に戻した。
背筋を伸ばして行儀良く座り直した。

「純夏ちゃん、正解は?」

真弥は子供のような表情で答えを待った。
彼女はどうしようって感じで僕を見た。
僕はちょっとだけ意地悪な顔で彼女を見た。

「正解は2番のTバックです」

答えを聞いた真弥は静かにコーラを飲んだ。
そして……

「Tバッ…」

『バコッ』

「いたっ」

僕はティッシュの箱を真弥に投げつけた。

「声がデカイって」
「だってTバックだぞ! 声もデカくなるって」

興奮する真弥の前で、彼女は恥ずかしそうにお好み焼きをパクッと食べた。
だけど、不思議と嬉しそうにも見えた。

「写真は? 写メ撮るって言ったぞお前」
「実はこっそり撮ったんだ」
「え〜ウソ?」

僕はあの日、一枚だけ携帯で彼女を写した。
横のラインからの一枚。
胸の大きさと、Tバックのお尻が見事に捕らえてあった。
とはいっても、その上に一枚穿いているけどね。

「私に見せてからですよ」
「そんなこと言わんといて」

僕は彼女にその画を見せた。
彼女は少し怒ったような表情をした。

「も〜油断も隙もないです」
「頼む、見せてくれ。一生のお願いだ」

真弥はテーブルに両手をついてお願いした。

「見せていい?」
「しょうがないなぁ」
「やった〜♪」

僕は真弥に携帯を見せた。
真弥はマジマジとその画をみた。
そして、黙り込んでコーラを飲んだ。

「赤外線で送ってくれ」
「それはダメです」
「え〜ケチィ〜」
「絶対ダメです」

彼女は全力で拒否をした。
真弥は激しくガッカリした。
それでも気を取り直してじっくり見る。

「英太、デカイぞコレ」
「うん、大きかった」
「も〜止めて下さい」

恥ずかしがる彼女がかわいかった。

「Tバックの下は見たのか?」

一瞬だけ沈黙した。

「残念ながら」
「お前バカだ」

心の中は焦っていた。
バカ真弥、余計なことまで聞くなって心の中で叫んだ。
本人の前で「うん、見ました」なんて言えるかって。

「英太さんのウソつき」

再び一瞬だけ沈黙した。

僕はソロッと彼女を見た。
彼女は口元を尖らせながら、怒ったような表情で僕を見ていた。

「全部見られちゃいました」

……思いきり言われた。

「英太君、事実を述べているのはどちらかな?」
「ごめんなさい。全部見ました」

急にドラマの被告人みたいな状況になった。
真弥は調子に乗って彼女にも尋ねた。

「見られただけではないですね」
「あのな〜ここは裁判所か」

そんな恥ずかしいことまで聞くなよな。
いくらなんでも答えるわけないないだろうが。

「はい、エッチもしました」

目眩がしてきた。

「英太、ここはお前の奢りね」
「はい……喜んで」

純夏ちゃん、なんでそんなこと言っちゃうかな〜
しばらくは真弥に頭が上がらないよ。
僕は恨めしそうに彼女を見た。
彼女は勝ち誇ったような顔で僕を見た。

なんでだよ〜


◇◇


いつもの駅で地下鉄を降りた。
真弥を乗せた地下鉄は走り去っていった。
なんだか妙に疲れたな。
久しぶりの学校だったし、純夏ちゃんが余計なこと言っちゃうし。
あーあ、タルくてバイト行きたくねーな。

「英太さん……なんか怒ってる」

彼女がいじけ気味に言ってきた。
別にいいよ。それにもう遅いし。

「怒ってないよ」
「ホント?」
「ホント」

そう言って彼女の頭を撫でた。
嬉しそうな表情をして手を繋いできた。
やっぱ年下かわいいぞ。
だけど、なんか騙されている気もするかも。


◇◇


地下鉄を降りて地上に出た。
とりあえずコンビニでも寄って立ち読んじゃうか。
ジャンプとかヤンマガとか出ているし。

「真弥」

振り返ると有希那がいた。

「寄り道したんでしょ」
「お好み焼き食ってきた」
「暑いのによく食べる気するね」

有希那は呆れ顔でそう言った。

「彼女と食べてきたの?」
「いないって分かって言ったな」
「こりゃあ失礼」
「英太達と食べてきたんだよ」
「英太達?」
「純夏ちゃんと3人でね」
「……そっか」

有希那の表情が曇った。
これは英太となんかあったな。

「有希那、ちょっと河川敷にでも行かないか」

彼女を誘って河川敷に向かった。
川は街の中心をゆっくりと流れていた。
ジョギングをする人、犬の散歩をする人、手を繋いで歩くカップル。
その向こうには高層ビル群が建ち並んでいる。
二人はベンチに腰を降ろした。

「なんかあったのか?」
「……別にないよ」
「そうは見えないけどな」

流れる川はキラキラしていた。

「私って神様に嫌われているのかなぁ」

そう言って両足を持ち上げ膝を抱えた。

「英太となんかあったんだろ?」
「あのね……」

中学の頃の話にさかのぼった。
今以上に子供だったけど、今よりは素直に笑っていた。
英太と葵が付き合ったこと、別れたこと。
有希那が英太を好きだったこと。
あの時、素直に伝えられなかった気持ちのこと。
それは僕も同じ……同じだな。

「真弥は本気で好きになった人っている?」
「たぶんいないな」
「私も」
「いつか必ずできると思うぞ」
「そうかなぁ〜私ってダメなような気がする」

そう言って膝におでこを当てた。

「葵が羨ましいよ」
「有希那は一歩引いたところがいいんだよ」
「それが嫌い」
「オレはそこが一番好きだけどな」
「真弥……」

涙が彼女の頬をつたった。
逆光が涙をキラキラと輝かせた。

「ちょっと左腕借りるね」

僕の左腕に両腕を絡めた。
頭を左肩に当てて、静かに泣いた。
シャンプーの香りが西風に乗って香ってきた。

ロリポップ!

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