Nazca Novels 雪原に舞い散る赤い雪

第29話 あの時みたいに

昨夜は珍しく遅くまで勉強した。
その結果、今朝は思いきり寝坊した。
朝食は食べられるはずもなく、猛ダッシュで駅に向かった。

『プシュー』

頑張ればギリギリセーフの地下鉄に乗れた。
さすがにこの時間に学生の姿はなく、車内は空いていた。
空いている席を見つけ、僕はドカッと腰を降ろした。

「私も寝坊した」

隣に有希那が座った。
眠そうな表情で携帯を見ていた。
彼女が寝坊なんて珍しい。

「純夏を泣かせちゃ承知しないからね」

いきなり怒ったような顔で言われた。
僕は有希那の顔を見ながら少しの間、固まった。

「分かった?」

有希那は僕と純夏ちゃんの間にあったことを知っている……

「うん」

僕は小さな声でそう返事をした。

ただそれだけで有希那は怒っているのだろうか?
それとも……

「私のことは関係ないからね。勘違いしないでよ」

有希那、本当にそうなのか?
あの日のことは後悔していないのか?

「なんだ、3人して寝坊か」

もう一人寝坊したヤツがいた。
コンビニ袋を持った真弥が現れた。
鞄は持っていなかった。

「お前、鞄はどうした?」
「慌てて出てきたから忘れた」

呆れてため息が出てきた。

「相変わらずだらしないわね〜真弥は」
「有希那だって寝坊したくせに」
「眠れなくってね」
「……そっか」

二人の会話が微妙に暗くなっていった。
真弥は有希那の隣に座った。

いつもならバカ話で盛り上がるのに、今朝は空気が重たかった。
3人してぼんやりと床を見つめていた。

「眠いね」
「眠いな」
「次は英太達の降りる駅だよ」
「降りる駅だな」

地下鉄は僕と真弥の降りる駅に止まった。
僕らは有希那に手を振りながら降りた。
手を振る有希那を乗せた地下鉄は少しずつ動いていった。

「走れば間に合うぞ」
「真弥は走れよ」
「じゃあオレも歩く」

ここで遅刻が確定した。
僕らはダラダラとした足どりで学校に向かった。
途中でコンビニに寄り、パンとフルーツ牛乳を買った。
再びダラダラとパンを食べながら歩いた。

「英太、これ以上は面倒起こすなよ」

3人でいた地下鉄の車内の空気で分かっていた。
僕は真弥の言葉の意味をすぐに理解した。

「聞いたのか」
「有希那が誘ったんだろ」
「……ゴメン」
「なんでオレに謝る」

壊すことは簡単こと。
どんなに苦労して築きあげても簡単に壊れてしまう。
それは形のあるものも、無いものも同じ。
僕は2度までも同じことをした。
もう元には戻れないだろう。
あの時の笑い合っていた4人は遠くに霞んで消えていった。

「仕方ないさ、所詮は男と女だから」

そう言って真弥は僕の肩を叩いた。

「これ以上は有希那を泣かすなよ」
「分かってる」
「まっ、5年後くらいには中学の時みたいに笑えればいいな」
「……そうだな」
「あのくらいのガキでいるのが一番楽しいよ。今が一番中途半端だからな」

子供には戻れないし、大人になるには遠すぎる。
真弥の言うとおりだ。
僕はちゃんとした大人になれるのだろうか。
結局は年をとるだけで何も変わらないのではないだろうか。


―― 昼休み 

「ふ〜ん、そうだったんだ」

葵は大して興味はないような顔でそう言った。
私はその態度に腹が立った。

「私は英太が好きだった。だけど、英太は葵と付き合った」
「そうだね」
「葵はあんな理由で英太と付き合った」
「……そうだね」

あの時、私の気持ちは粉々に砕かれた。
ずっと我慢していたのに……
みんなの関係を壊したくなかったから。
私は誰よりも英太を好きだったのに。

「だから英太と別れた」
「えっ?」

葵が英太と別れた本当の理由を教えてくれた。
付き合いだしてから葵は英太を本気で好きになっていった。
それに比例するように、私の笑顔は暗くなっていった。
そんな私を見て、葵は英太に対する私の気持ちを知った。

そして、英太と別れた。

「嫌いになって別れたんじゃないの?」
「好きだったよ。でも有希那の気持ちには負けていたから」
「私の気持ち?」
「有希那の想いは私よりずっと強かったから」
「葵……」
「それに、私は英太より有希那の方が大切だからね」

私だけではなく、葵も私に対してわだかまりを持っていた。
親友なんていいながら、本当は上辺だけじゃないかって。
葵もあの時は苦しんでいたんだね。
ゴメンね葵。大好きだよ。

「英太に走っていったら?」
「ううん、もういい」

内輪の恋愛はもう懲り懲りって今は思った。
私にもどこかにナイト様がいるはずだよ。
それに、いつかはあの時みたいに笑い合いたいもの。
どんな話をしていたなんて思い出せない。
記憶に残ることなんかあんまりない。
ただ毎日を4人で笑って過ごした。
それだけのことだけど、それだけのことが楽しかった。

ロリポップ!
この二人…バカなのか? それとも……カネゴンと親友

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