Nazca Novels 雪原に舞い散る赤い雪

第4話 年下の女の子

「ねえねえ、いつ頃から付き合っているの?」

有希那がニヤニヤしながら聞いてきた。

「2,3週間前ぐらいかな」
「じゃあもう少しだね」
「何がもう少しだ」
「そんなこと言えないよ、スケベ」
「あのさ、女子校ってそんな話しかしないのか?」
「一応共学なんだけどね」

オレもそうだけど、この年頃の男女はそっちの話が好きなんだよな。

地下鉄が右にカーブしていくのが分かる。
車両が傾いてきた。
サラリーマンやOLさんはみんな疲れた顔をして地下鉄に乗っている。
僕ら高校生はこの不況の中で別の世界にいるみたいだ。
実に暢気で平和だ。
親の苦労なんてこれっぽっちも分かっていない。
自分で言うのも変だけど、未来が不安だ。

「ねえ、英太」
「なんだ」
「あんた、私らの前の駅で降りるでしょ」
「んだね」
「この子送って行ってね」
「はい?」

葵が見ず知らずの子を送って行けと言ってきた。

「あんたのマンションの向かいに住んでいるから」
「そうなんだ…っていいのオレで?」
「他に誰がいるのよ」

確かにそうだけど……

「葵先輩…私大丈夫ですよ」

その子は少し赤くなりながら恥ずかしそうに言った。
葵を先輩って呼ぶってことは、2年生か…

「この子小仲純夏ちゃん、かわいいでしょ」
「ちょっと、葵先輩」

照れまくっている。
確かにかわいい。
年下の子っていいかも。

「後輩なんだ」
「うん、部活一緒なんだ」
「オレ金崎、よろしくね」
「はっはい、小仲です。よろしくお願いします」
「純夏、そんなに緊張するんでないって」

葵が頭を撫でながら優しく言った。
うーん、年下って……かなりいいぞ。

「そうだよ、こんなヤツに」

有希那が割り込んできた。

「有希那…言い過ぎだよ。軽く傷ついたぞオレ」
「ドンマイドンマイ」
「なんだそれ、そんなんじゃ彼氏できないぞ」
「英太、今度殺す」

3人になれば大体いつもこんな感じになる。
真弥が加われば更にゴタゴタになる。
中学の時を懐かしく思った。

疲れた大人から見た僕らは、さぞ腹立たしく写ったであろう。
それとも、あの頃に戻りたいって思っているのだろうか…

降りる駅に着いた。

「英太よろしくね」
「はいはい」
「襲ったりするんじゃないよ」
「やかましいわ」

地下鉄が動き去っていった。
僕と彼女は地下鉄の明かりが見えなくなるまで見つめていた。

「帰ろうか」
「はい」

地上に出てからしばらくの間、僕らは無言で歩いた。
夜風が冷たく感じた。

「まだ寒いね」
「はい」

……会話にならない。
重苦しい空気がとても辛い。
どうしたものか……

「先輩が向かいに住んでいること知っていました」

「えっホントに?」

「先輩、今年引っ越ししてきましたよね」
「うん、4月に来たよ」
「引っ越しの日、私と会っているんです」
「ウソっ…ゴメン覚えていないや」
「いいんです」
「何話したの?」
「コンビニ近くにあるって質問されました」
「そうだったんだ、ゴメンね」

全く覚えていなかった。

「朝もだいたい同じ時間に学校に行くんですよ」
「そうなの?」
「はい、よく私の前を歩いています」
「そうなんだ」
「はい」

朝が弱いからいつもボーッとしている。
朝はいつも下を向いて歩いている。
かわいい子がいても朝は気が付かない。
残念な男だ。

「金崎先輩」
「なに?」
「朝学校行くときに先輩に会ったら、声をかけていいですか?」

予想もしなかったことを言われたので、僕は少し固まった。

「ダメですか?」
「全然いいよ」
「ありがとうございます」

彼女がとても元気な可愛い笑顔を見せてくれた。
僕も嬉しくなった。

「今日はありがとうございました」
「バイバイ」
「はい」

彼女は走って向かいの棟の入り口に行った。
そして、入り口で振り返り僕に一礼した。

ビル風の冷たさに少し涙が出てきた。
早く夏にならないかな〜

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