Nazca Novels 雪原に舞い散る赤い雪

第5話 金曜日(朝〜夕)

僕は金曜日の朝だけは意外と元気だ。
それは土日が休みだからだろう。
日中は自由な時間が持てる。
夜はバイトだけど……

4月に今のマンションに引っ越してきたけど、地下鉄までけっこう距離があるよな。
マンションから地下鉄駅まで徒歩5分っていうのは絶対ウソだよ。
どう考えても8分は確実に歩いている。
新聞入ってくるマンションのチラシによく駅まで5分って書いてあるけど、たぶんほとんどが5分というのはウソだろうな。
うん、絶対そうだ。

なんて考えながら歩いていたら地下鉄の駅に着いた。

ぼんやりと立っていると背中に視線を感じた。
振り向いてみると昨日知り合った純夏ちゃんが立っていた。
彼女は少し困ったような表情をしていた。

「おはよ」
「お…おはようございます」

初々しくてかわいい。

「ひょっとして後ろ歩いてた?」
「……はい。でも話しかけられなくて……」
「遠慮しなくていいよ」
「そういうわけでなくて……先輩、一度くらいは後ろを振り向いてくださいよ」

半分すねたような顔で彼女は言った。

「月曜日からは振り返るよ、忘れなかったら」
「忘れないでください」

再び半分すねたような顔で彼女は言った。

しばらくして地下鉄が駅に到着した。
僕らはその地下鉄に乗り込んだ。
車内は学生や通勤する人で混み合っていた。
僕らはドアの逆側に押されるような形で進んだ。

「今日は混んでいるね」
「そうですね」

地下鉄が発車した途端、彼女はよろけた。

「おっと、大丈夫?」

僕は彼女の背中を右手で支えた。

「す…すいません」

恥ずかしそうに彼女は謝った。
……やっぱり会話がない。

僕はやや下を向いている彼女の横顔をぼんやり見ていた。
鼻筋が通っているな〜大人になったらもっと綺麗になるだろうな。
彼女は目だけ動かして僕を見た。

「なんか恥ずかしいですぅ」

少し頬を赤くしながら言った。
僕は何も言わずに視線を下にずらした。
ブラウスのボタンとボタンの間に空間が出来ていた。
薄桃色……淡い色彩が彼女を包んでいる。
その下には……僕は慌てて視線の方向を変えた。けっこうデカイかも。

車内は駅に停車するたびに人が増えていった。
混雑のお陰で彼女とはまともに会話できず降りる駅に到着した。

「それじゃ」
「あっ、はい」

少し寂しそうな表情に見えた。


学校までは地下鉄駅から歩いて7,8分の所にある。
周りは住宅地だけど、大きな公園もあって良いところだ。
僕は志緒理がちゃんと学校に来ているか彼女のクラスを覗いた。
窓際でクラスの友達と仲良く話している志緒理がいた。
僕に気が付いた彼女は走って近づいてきた。

「英太おはよう♪」
「ちゃんと来てるな」

僕は笑いながら彼女の頭を軽く2回叩いた。

「何それ失礼だね〜英太は」

彼女は少し怒ったような顔をした。

うん、なんかいい感じだ。


◇◇


「英太、今日さ夜遊びしない?」

真弥がニコニコしながら話しかけてきた。

「バイトあるからパス」
「兄さん、かわいい子が選り取り見取りでっせー」
「パス!」
「英太の写真見てさぁ、会ってみたいって子がいるんだけどな〜」
「謝っておいてくれ」
「彼女と別れたら会ってやってくれな」
「縁起の悪いことを言うな」


今日の授業が終わった。
バイトはあるけど2連休には違いない。
地下鉄まで志緒理と帰ろうとするかな。
僕は志緒理のクラスへ足を運んだ。

「志緒理なら急いで帰ったよ」

なんだかな〜
せっかく一緒に帰ろうと思っていたのに…
仕方がないから寂しく帰るか。

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