Nazca Novels 雪原に舞い散る赤い雪

第6話 金曜日(夕〜夜)

久しぶりに働いたような気がした。
今日は新刊が多いのでけっこう忙しい。
でも、僕はそんなことより大塚さんの元気のなさが気になった。

「調子悪いんですか?」
「……大丈夫だよ」

こんなに元気のない大塚さんは初めて見た。
彼氏と喧嘩したのか?たぶん正解だ。
こんな美人を泣かせるような男は絶対に不幸になるぞ。
僕だったら絶対に泣かさない。
って、そもそも相手にしてくれないけど。

今日のバイトはあっという間に終わった。

「お疲れでした」
「金崎君、今日はどうもね」
「いえ別に」
「金崎君は優しいね」
「あ…えと、また明日」
「うん、バイバイ」

大人の女性の表情に僕はどう対処していいのか分からなかった。
気の利いた言葉が何も出てこなかった。
そういえば志緒理のヤツは今頃何してるかな?
今日はオレを置いてサッサと帰りやがって……電話はせんぞ。


◆◆◆


「真弥君、次どこ行く?」
「どこ行きたい?クラブとか?」
「クラブだったらみんなバラバラになるから、カラオケにしようよ」
「うん、そうだね」

あれ?あそこにいる子は…南じゃん。
英太と来てるのか?いや違う……アイツはバイトだ。
誰だあの男連中は、どう見ても年上だな。
う〜ん、やっぱあの女は怪しい。

「真弥君、どうしたの?」
「ん、何でもないよ、行こう」


◆◆◆


家に帰ってきたら、兄貴がいた。

「母さんから金もらったぞ」
「いつになる?」
「来週中にはお前の名義になる」

やっと自分の車が手に入る。
バイト頑張って良かった。
明日は車用品でも買いに行こう。
めっちゃくちゃテンションが上がってきたぞ。

「それまでに駐車場を探しておけ」
「えっ?」
「あと保険も切り替えとかいろいろあるぞ」
「う〜やっぱ金がかかるな」
「当たり前だ。まっ、最良の方法でやってやるから」
「うん、頼みます」

一気にテンションが下がった。

「車はガソリン代だけじゃないんだぞ」

やっぱバイトは続けなくてはいけない。
受験とか、志緒理のこととか、急に面倒くさくなってきた。

部屋の机の上に兄貴の置いたタバコがあった。
僕は1本もらってバルコニーに出て火をつけた。

ふぅ〜

ニコチンが体を回っていくのが分かった。
急に目眩がしてきた。
ぼんやりと向かいのマンションを見ていると、部屋からバルコニーに出てきた人が見えた。
ここは10階だから……あの部屋は8階くらいかな?
女の人に見える。こんな時間に何しようとしているのかな?
その人は手摺りに手をかけてこっちを見ているように見えた。
僕にとってはどうでもいいので部屋に戻ろうとした。

「先輩」

ん?

僕は振り返ってその人を見た。
その人は僕に向かって両手を振った。

純夏ちゃん?

そういえば向かいのマンションに住んでいるはず…

「純夏ちゃん?」

彼女は両手を上に上げて○を作った。
その姿が一生懸命に見えて少し嬉しくなった。
それと、大声を出した自分が少し恥ずかしくなった。

「おやすみ」

僕はそう言って手を振った。
彼女はコクッと頭を下げた。

なんか今日はいい感じで眠れそうだ。

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