第8話 誤解
月曜の朝は寝坊で始まった。
ヤバイ、ギリギリだ。
朝食を食べている余裕はあるはずもなく、慌てて家を出た。
地下鉄の駅に向かう途中、僕は後ろを振り返った。
純夏ちゃんの姿は見えなかった。
僕の通う学校よりひと駅遠い学校に通っている。
こんな時間にいるはずがないか。
さあ急ごう。
階段を駆け下り、飛び込むように地下鉄に乗った。
明るい駅のホームから暗がりの中へ地下鉄は動き出した。
地下鉄に揺られながら志緒理のことをぼんやり考えた。
怒っているんだろうな。
なんか志緒理と会うのが嫌だな。
なんであの時、付き合うって言ってしまったのだろう。
面倒だから別れちゃおうかな?
だけど、それも何だか酷いことしているみたいで嫌だな。
遅刻ギリギリのこの時間は、さすがに高校生の姿はほとんど見えなかった。
「英太おはよう」
「うわっ、ビックリしたぞ真弥」
「英太、あの女は気をつけた方がいい」
真弥が珍しく真面目な顔で言ってきた。
「志緒理のことか?」
「お前がコンパをパスした日、南を見た」
「それホントか?」
「男連中と一緒にいた。夜だったから100%じゃないけど、オレには南に見えたぞ」
確かに志緒理はイマイチ謎が多い。
学校はよく休むし、早退もする。
この前は何も言わずに速攻で帰ったし。
「忠告は聞いておく、痛い目に遭わないように考えておくよ」
少しは親友の意見も聞いておくことにした。
だけど、そんな子じゃないって僕は信じたい。
◇◇
ギリギリのところで遅刻は免れた。
1時間目の前にトイレに行こうと僕は教室を出た。
教室を出た途端に右手を誰かに引かれた。
右手の先には志緒理がいた。
志緒理は黙ったまま僕の手を引き1階に連れて行かれた。
「う〜」
ほっぺたを膨らませて怒った顔をして僕を睨んだ。
「オレだって電話したしメールも入れたぞ」
志緒理は何も言わず怒った顔で僕を睨んでいる。
「バイトだったんだよ、土日は昼から夜まで」
「ホント?」
「ホントだって」
「他の女の子と一緒だったんでないの?」
「違うって、志緒理だって何やってた?オレだって心配したぞ」
「だって忙しかったの」
「お前って夜遊びとかしてる?あとさぁ、なんか隠してない?」
再び志緒理は怒った顔で僕を睨んだ。
「だって学校は休むし早退はする、金曜日は速攻で帰っただろ」
志緒理の目から涙がこぼれ落ちてきた。
「お母さんが病気なの」
志緒理が震えながら言った。
僕は、彼女を疑ったことを後悔した。
真弥のヤツ、やっぱり見間違いじゃん。
「ゴメン、変なこと言って」
「いいよ、私こそ浮気しているって誤解してごめんなさい」
「今日は一緒に帰れるか?」
「うん」
志緒理は僕に抱きついてきた。
「私のこと嫌いにならないで…お願い」
「ならないよ」
「信じていい?」
「大げさだって」
彼女の真剣な表情に僕は少し戸惑った。
「信じていいよ」
「うん」
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