第16話 織川君は?
「ふゆタン、今日は学校行けるの?」
「うん、二日も休んだからもう大丈夫だよ」
「織川君がお見舞いに来たんだって?」
「うん」
昨日は会っていないから寂しかったよ。
今日は学校で会えるから超楽しみなんだ。
「冬花大丈夫か? 大丈夫よ織川君。良かった冬花、ゴメンね織川君。そこで二人は見つめ合い、キスをするのであった。織川君それ以上はダメ……冬花オレもう我慢できない」
『スパーン!』
「アベシッ」
「なに小学生の前で安っぽい官能小説を語ってんのよ、この耳年増のエロ中学生」
「お母さん、いつの間に……しかもスリッパで叩いた」
「あんた公立の高校に行けなかったら、売り飛ばすわよ」
「うひょー、母はとんでもないことを言ったよ」
「そんな調子じゃ彼氏はできないわ」
「冬花、誰か紹介して〜」
「小学生に頼むな!」
この二人のやり取りには朝から疲れてしまいます。
私がおばさん臭いって言われるのは、絶対にこの二人の影響が関係していると思います。
「よっこらせーの、お母さん行ってきまーす」
「冬花、あんたはおばさんか! よっこらせーはやめなさい」
「あ…無意識に言っちゃった」
「小学生らしくしようね」
・・・・・⇒
久しぶりに学校に来たって感じです。
なんか緊張してしまいます。
このドアを開けると織川君に会えます。
うれしくて胸がいっぱいになりそうです。
『ガラガラ』
織川君の姿はありませんでした。
お母さんの病院に行っているそうで、今日と明日はお休みだそうです。
一気にテンションが下がってしまいました。
「あら〜冬花ちゃん元気がないね」
「そんなことないよ」
「彼氏がいないと寂しいもんね〜」
「やめてよ、咲希」
なんでこんなに寂しいのかな?
二週間くらい前はこんな気持ちになんてならなかったのに…
どうしてこんなに変わってしまったんだろう。
今は織川君がいないと寂しくて悲しい。
会いたい。
声が聞きたい。
涙が出てきました。
◆◆◆
「志典、本当にいいの? 卒業まであの学校にいていいのよ」
「オレのことは心配しないで母さん、お父さんと離れて暮らしたらダメだよ」
「本当に優しい子ね、志典は」
「父さんも喜んでいるよ」
「ありがとう志典」
17歳でオレを生んだ母さん。
17歳っていえば高校生の年齢で、本当は友達とかとカラオケ行ったり、買い物に行ったりして一番楽しい時間を過ごす年齢のはず。
だけど母さんは、父さんが死んでから一人でオレを育ててくれた。
高校中退だと就職口は無く、オレを育てるために仕方なく夜の仕事をした。
母さんのことを子供が子供を産んだって悪口を言う人もいた。
父さんが早く死んだことを知らない人は、もっと酷いことを言った。
それでも母さんは黙って働いていた。
オレのために自分を犠牲にして働いていた。
オレが生まれてこなければ、母さんはもっと幸せだったと思う。
今のお父さんだって、本当は赤ちゃんと三人で暮らしたいって思っているはず。
だってオレは本当の子供でないから……
でも、今のオレは子供すぎて何もできない。
邪魔にならないようについて行くだけ。
それしかできない。
本当は冬花のいる街に残っていたい。
冬花の笑っている顔をそば見ていたい。
冬花に好きだって伝えたい。
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