第19話 水が増えてる?
お祭りは結局行きませんでした。
一日中ベッドの中でゴロゴロしていました。
なんにもやる気がしませんでした。
だけど今日は咲希と由美に無理矢理連れて行かれました。
「今日も良い天気だね〜冬花」
「そうだね」
「織川君となんかあったの?」
「ないよ」
「ウソばっかり、バレバレだからね」
「好きな子いるんだって」
「……そうなんだ」
三人とも無言になってしまいました。
暗い空気……嫌だな。
「冬花〜元気出して」
咲希が泣きながら私に抱きついてきました。
「心配しなくても私は大丈夫だよ」
私たちは室山君と福永君と合流しました。
「室山君」
「どうした井東」
「楽しくて面白い所に連れて行ってよ」
「運動会はもういいのか?」
「つまんないもん」
「よし、魚でも釣るか」
由美は私のために気を遣ってくれました。
由美も咲希も大好きです。
◇◇
だいぶ片ついたな。
もう少しでサヨナラになっちゃうな。
「お父さん、ワガママ言ってごめんなさい」
「それくらいはお安いご用だけど、みんなに言わなくて本当にいいのかい?」
「オレ絶対に泣いちゃうからいいんです」
「分かったよ」
「引っ越しするのか?」
宮川……
「お前、引っ越しするのか?」
「あぁ引っ越すよ」
「どこにだよ」
「札幌」
「それじゃ転校じゃねえか」
「だね」
「お前、ちょっと付き合え」
珍しく宮川が誘ってきた。
「どこに連れて行く気だ?」
「ただブラブラするだけだよ」
大した会話もなく本当にブラブラと歩いた。
コイツはオレのこと嫌いじゃないのか?
この前思いきりブン殴ったのにな。
「みんなに内緒で転校か」
「……」
「お前はカッコつけだな」
「そんなんじゃねえよ」
泣くのが恥ずかしいんだよ。
オレってけっこう涙もろいんだよ。
やっぱカッコつけだな。
「沢田にも言わないのか?」
「うん」
「そっか」
ホントは冬花がいるから内緒にしたいんだ。
アイツにサヨナラを言うのが辛いから。
◇◇
「今日は水が少ないからだよ」
「中州に来たの初めて」
「魚釣れるといいけどな」
四人は楽しそうにはしゃいでいる……羨ましいな。
織川君は今頃何をしているのかな?
好きな子ってどんな子なのかな?
きっとかわいい子なんだろうな。
私なんて一重か二重かはっきりしない目だし、おばさん臭いも。
なんか疲れちゃったよ、面倒くさいよ。
こうやって川の水に足を浸していた方が楽でいいや。
おばさん臭くて結構ですよ。
のんびり毎日を過ごす方が性格に合っているよ。
あ〜あ、水が冷たくて気持ちいいや。
あれ? なんかさっきより水が増えてない? 気のせいかな。
流されて海まで行けたらいいかも。
って、マジで増えてるよね。
「ヤバイ水が増えてきた、戻るぞ」
福永君が川の状況に気が付きました。
やっぱり本当に増えている。
私達は慌てて川を渡り始めました。
水の量はどんどん増えていきました。
「井東オレにつかまれ、八坂も永の手をつかめ」
「冬花も私につかまって」
「咲希、私は大丈夫だよ」
近くのダムが水を放流していました。
警告の赤い回転灯が回っているのが見えました。
もう少しで渡りきれるのに……
でも、川の水が膝より上まで増えて足が動かない…
「冬花、がんばってもう少しだから」
咲希と由美が必死になって声を掛けてくれている。
私は大きな石につかまるのが精一杯でした。
「私、誰か呼んでくる」
咲希が慌てながら走り出していきました。
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