第20話 ホント?
「月曜日で最後だよ」
「最後までお前がよく分からんかったぞ」
「宮川、お前は最近変わったな」
「変わってねえよ」
1年の時から一緒だったけど、宮川とまともに会話したのは初めてかもしれない。
ただのいじめっ子。だからコイツとは関わりたくなかった。
意外といいヤツかもしれないな。
もっと話をしておけばよかったって今更になって思う。
「あれ八坂じゃないか」
女の子が慌てた様子で走ってきた。
宮川の言うとおり、八坂だった。
「なにやってるんだ?」
「はぁはぁ、織川君…冬花が大変なんだよ」
「落ち着いて話せって」
「川に、川に流されそうなの、助けて」
川の方に目をやると人の姿が見えた。
冬花……
助けなきゃ、オレが助けなきゃ。
「宮川、八坂、何でもいいからロープみたいの探してこい」
「さっき工事現場のところにあったな」
「宮川頼む」
冬花、少しだけ辛抱してろよ。
絶対助けるから。
頭の中は真っ白になっていた。
冬花のことでいっぱいになっていた。
川の流れる音、風の音、人の声も何も聞こえてこなかった。
流れる水の中に人影が見えた。
今助けるから待ってろ。
飛び込むように川に入った。
あ…人じゃない?
ビニール袋?
冬花はどこだ?
「織川君」
周りの音が急に聞こえだした。
振り返ると冬花が心配そうな顔で見ていた。
なんだ、無事に上がれたんだ。
「バカ!
溺れたかと思ったぞ」
「ごめんなさい」
オレ、すげーバカみたいじゃん。
「織川避けろ!」
木の根っこのような流木が流れてきた。
ギリギリでかわした。
と思ったら足が滑った。
『バシャッ』
完全に油断してしまった。
冬花の泣き叫ぶ声が聞こえてきたけど、だんだん聞こえなくなっていった。
うげっ、今思いきり川の水飲んだぞ。
苦しい、息できねえ……
ヤバイぞ、マジで何もできない。
あれ? 妙に時間が止まっているように感じる……
オレって死ぬの?
それって早すぎないか?
だけど、その方が三人で暮らせるんだ。
母さんはオレのせいでずっと苦労してきた。
オレがいない方が母さんは幸せになれる。
そう思ったら、もう水の流れに抵抗する気がなくなった。
そして意識がなくなってきた。
『こんな所で何やってるんだ』
誰かに抱きかかえられる感じがした。
父さん?
父さんの声……記憶には残っていない。
だけど、今聞いた声は間違いなく父さんの声だ。
生まれて初めて父さんに怒られた。
◆◆◆
あ…空が見える。
もう日が暮れてきたんだ。
なんだ、オレ死んでいなかったんだ。
右手が暖かい。
「……冬花か?」
「あっ織川君……うえ〜ん、良かったよ〜」
「いきなり泣くなよ」
「だって、だって」
横で冬花がわんわん泣いていた。
水は飲んだけど、別にどこも痛くなかった。
あの時、誰かに助けられた気がした。
父さんが助けてくれたの?
「ごめんなさい」
「謝るなって、オレの早とちりだも」
「うれしかったよ」
「勝手に飛び込んで、滑って流されて……めちゃカッコ悪いなオレ」
「ううん、カッコよかったよ」
久しぶりに近くで冬花の顔を見た。
ウサギのような真っ赤な目をしてオレを見ていた。
ベッドから体を起こした。
「冬花、もっと近くに来いよ」
「うん」
「ここに座って」
「ベッドの上?」
言われたとおりに冬花が座った。
「こんな感じ?
わっ」
後ろから冬花を抱きしめた。
「少しだけこうさせろよ」
冬花は戸惑いながらもコクッとうなずいた。
「他の学校に好きな子いるの?」
「あれはウソ、あの時はああ言うしか方法がなかったんだ」
「ホント?」
「ホントだよ」
右腕に冬花の涙が落ちてきた。
「私明日も来る」
「待ってる」
「うん」
← Back Index Next →
ランキングに参加中です。一押し応援して頂けたら嬉しいです。 | |||||
NEWVEL | 乙女の裏路地 | Wandering Network |
恋愛ファンタジー 小説サーチ |
HONなび |