Nazca Novels 歯医者さんとヴァンパイア

第6話 そんな終わりは大嫌い

僕は君の笑う顔を見てみたい。
晴れた空の下で無邪気に笑う君を見てみたい。

僕は君の涙を止めてあげたい。
雨降る空の下で泣いている君の涙を止めてあげたい。

僕は君の涙の理由(わけ)が知りたい。
君の笑顔が取り戻せるなら僕は力になってあげたい。

泣き顔が笑顔になるならそれでいい。
君の笑顔に会えるのなら。

涙の理由 ――

心を閉ざした女の子は笑わなくなった。
無機質な世界は彼女一人だけの世界。
生きる意味を失い、何もない遠くを見ている毎日。

つまらない毎日。
当たり前の毎日。
変わらない毎日。
見えない自分の未来。
失ってしまった笑顔。

雨の日は涙が溢れる。
枯れない涙は助けを求めている。

お願い、私をここから連れ出して。

一人では生きていけないから。
これ以上は一人で歩けないから。

「君は必ず幸せになれるさ」

誰もいないはずの世界。
彼女一人だけの世界。
その世界に優しい声が聞こえてきた。

「あなたは誰?」
「僕は君を助けに来たんだ」
「助けに?」

降っていた雨が止んだ。
雲の切れ間から光が差し込めてきた。

「君の悲しみは僕が受け止めてあげるよ」
「本当?」

彼女は涙する理由を話した。
彼は優しく全てを聞いてくれた。

「この世界を出よう」
「でも……」
「僕が君を守ってあげる」

差し出した手は温かく優しさに満ちていた。
彼女はその手を取り立ち上がった。

誰もいなかった無機質な世界。
でも今は繋いだ手から温もりを感じる。

「ありがとう」

彼女は照れたように笑った。
取り戻せた笑顔が嬉しかった。

そして、この世界に別れを告げた。
誰もいなくなった世界は、太陽に吸い込まれるように消えていった。

「君は一人じゃないよ」
「うん」
「もう僕は行くね」
「えっ? ちょっと待って、一人にしないで」
「君はもう大丈夫だよ」
「守ってくれるって言ったのに」

彼は彼女の頭を優しく撫でた。
泣きそうな顔で彼女は見上げた。

「僕は君みたいな人を助けに行かなければならないんだ」

彼女は彼の使命を理解した。
私と同じような人がどこかで泣いている。
助けを求めている人がいる。

「君が困っているとき、僕は必ず来るから」
「本当?」
「君は君らしく前を向いて歩いて」
「うん、頑張ってみる」

繋いだ手が離れていく。
温もりが消えていく。
離したくない温かさ。

「さようなら」

彼は光の中に消えていった。


◇◇


彼女は自分が物語の女の子になったつもりで読んだ。
恋愛小説にどっぷり漬かって読むタイプだから。
故に思いきり感情移入してしまう。

「なんで結ばれないのよ」

納得できない彼女は眠っている彼を睨んだ。

「バカ」

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